拡張型心筋症は、とくに左心室の筋肉が収縮する働きが低下し、左心室が大きくなることでさまざまなトラブルを引き起こします。それならば、大きくなった左心室の壁の一部を切り取り、縫い縮めて左心室の直径を短くすれば、収縮が元に戻るのではないか。そうした発想から考案されたのがバチスタ手術です。
一時期はアメリカをはじめ日本でも症例が重ねられ、症状によっては一定の効果が得られると脚光を浴びました。しかし、アメリカの主要施設で術後の再発や死亡を指摘され、同国の慢性心不全ガイドラインでも、「有益ではないまたは有害であり、適応でないことで意見が一致している」と推奨されていません。いまは日本も含めてほとんど行われていないのが現状です。
そもそも、バチスタ手術は難易度が非常に高いといえます。心筋梗塞を発症して心臓の一部が硬くなった場合であれば、その部分にメスを入れても出血はしません。しかし、バチスタ手術は動いている心臓の筋肉の一部を切り取って縫い合わせます。正常な筋肉にメスを入れるわけですから、栄養血管である冠動脈を損傷することで縫合部の止血に苦労したり、そこが原因となって術後の危険な不整脈を誘発することがあります。それだけに、術中術後にトラブルを起こす可能性が高くなるのです。
天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」