天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

「バチスタ手術」は決定的な外科治療とはいえなかった

天野篤氏(C)日刊ゲンダイ

 拡張型心筋症は、とくに左心室の筋肉が収縮する働きが低下し、左心室が大きくなることでさまざまなトラブルを引き起こします。それならば、大きくなった左心室の壁の一部を切り取り、縫い縮めて左心室の直径を短くすれば、収縮が元に戻るのではないか。そうした発想から考案されたのがバチスタ手術です。

 一時期はアメリカをはじめ日本でも症例が重ねられ、症状によっては一定の効果が得られると脚光を浴びました。しかし、アメリカの主要施設で術後の再発や死亡を指摘され、同国の慢性心不全ガイドラインでも、「有益ではないまたは有害であり、適応でないことで意見が一致している」と推奨されていません。いまは日本も含めてほとんど行われていないのが現状です。

 そもそも、バチスタ手術は難易度が非常に高いといえます。心筋梗塞を発症して心臓の一部が硬くなった場合であれば、その部分にメスを入れても出血はしません。しかし、バチスタ手術は動いている心臓の筋肉の一部を切り取って縫い合わせます。正常な筋肉にメスを入れるわけですから、栄養血管である冠動脈を損傷することで縫合部の止血に苦労したり、そこが原因となって術後の危険な不整脈を誘発することがあります。それだけに、術中術後にトラブルを起こす可能性が高くなるのです。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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