がんと向き合い生きていく

深夜に搬送された病院で「7万円の病室しか空いていない」と言われ…

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

「先生、お金はいくらかかってもいいですから……治してください!」

 紹介されてきた患者の母親が、食い入るように私を見つめてこう口にしました。それを受け、私は「治療は一番良い方法を行っています。お金で治療法が変わることはありません」と答えました。

 しばらくしてから、私は学生時代に悪性リンパ腫の疑いで入院した時、ベッドの脇で母が漏らした言葉が頭に浮かんできました。

「じぇね(銭)ならなんぼかかってもいいから、先生にお願いして治してもらう」

 その時、私は黙っていましたが、心の中で「わが家にそんなに金があるわけでもないのに」と思ったのでした。

 アメリカと違って、貧富の差があっても、日本ではお金に関係なく高度な医療を受けることができます。日本は国民皆保険制度で、高額療養費制度などもあります。そんな日本の医療制度の中で、お金に関して私が気になっているのは「個室料金(差額ベッド代)」です。差額ベッド代は全額自己負担なのです。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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