疲れる、ボーッとする…女性に多い「甲状腺機能低下症」とは?

<簡単な検査で分かる>

 Aさんの妻(50)が「体がだるい。手足は冷えているのに体はほてる」と言い出したのは3年前。婦人科で更年期障害と診断され、女性ホルモンを補うホルモン補充療法が始まった。

 ところが症状は悪化。Aさんの妻はふさぎ込んで、うつのようになり、一日中寝て過ごすようになった。今年に入り、自宅の2階への階段を上がるのもつらいほど、ふらつきや倦怠感が強くなった。面変わりするほどむくみもひどい。Aさんはむくみから心臓病を疑い、妻を循環器内科に連れて行った。血液検査の結果、甲状腺機能低下症と判明。すぐに専門病院を紹介された。

 甲状腺機能低下症は、心臓、消化管、皮膚など多くの臓器や細胞の新陳代謝を活発にして元気にする甲状腺ホルモンの血中量が不足する病気だ。

 患者数は圧倒的に女性に多い。Aさんの妻のように、正しい診断まで時間がかかることが珍しくないという。“一家の要”を守るために、知っておくべきことは何か? 甲状腺疾患の専門病院である「金地病院」の山田恵美子院長に聞いた。

「甲状腺機能低下症が正しく診断されにくいのは、症状がさまざまな上に、どれも別の疾患でもよく見られるものだからです」

 疲れやすい、元気がない、ぼーっとする、物忘れがひどい、眠い、冷え、汗が出ない、むくみ、体重増加、便秘、声がれ、記憶力低下など。いずれも甲状腺機能低下症に特有の症状ではない。

「甲状腺機能低下症の原因の大半は、自分の甲状腺を異物と見なして破壊する自己免疫疾患の橋本病です。橋本病は中高年の女性によく見られます。この年代は更年期障害やうつ病の発症率が高くなるのも、別の病気と間違われる理由です」

 甲状腺機能低下症が重症化すると、日常生活を送ることが困難になる。ろれつが回らなくなり、簡単な計算すらできない。コレステロール値が上がり、動脈硬化が進行し、心筋梗塞や脳卒中の危険が増す。ひどくなると、意識不明に陥る。

「ところが、適切な治療を受ければ、見違えるほど元気になり、仕事、運動、食事など健康な人と同じように何でもできるようになります。甲状腺機能低下症で重要なのは、この病気を疑い、診断・治療にまでたどり着くということなのです」

 甲状腺機能低下症は、血液検査でフリーT3、フリーT4という2種類の甲状腺ホルモン、TSHという甲状腺刺激ホルモンの量を調べればすぐに分かる。「フリーT3、フリーT4が減少」「TSHが増加(甲状腺ホルモンの減少で、甲状腺刺激ホルモンが増加する)」のどちらかに該当すれば、甲状腺機能低下症と診断される。

「甲状腺疾患の専門病院でなくてもできる検査です。ただし、普通に血液検査を受けるだけでは、T3、T4、TSHの値まで調べないことがほとんど。健康診断、人間ドックの項目にも一般的には入っていません」

 先に挙げた甲状腺機能低下症が疑われる症状があるなら、「甲状腺の検査もしてほしい」と自ら申し出るべきだ。

 治療は、不足した甲状腺を薬で補う。破壊された甲状腺は元に戻らないので、一般的には一生薬を飲み続けることになるが、1日1回の薬で、発症前と同じ生活を取り戻せる。
 Aさんの妻も、治療1カ月で劇的に回復。夫婦で何年も苦しんだのが嘘のようだという。

 橋本病のうち、甲状腺機能低下症になるのは30%ほど。橋本病の段階では治療の必要がなく、経過観察になる。