ピリピリや灼熱感…「足の違和感」で眠れない人の“特効薬”

“足がジンジン、ピリピリする”“足の裏に灼熱感がある”“砂利の上を歩いているみたい”――血糖値が高い人が、こうした感覚に襲われたら、糖尿病性の神経障害を疑った方がいい。放っておくと末は足の切断を余儀なくされる恐ろしい病気だが、その前に足の違和感から不眠に陥るケースもあるという。

 昨年、こうした足の違和感を解消する薬が認可され、効果を上げているという。どんな薬か。糖尿病専門医で「しんクリニック」(東京・蒲田)の辛浩基院長に聞いた。

 工藤隆文さん(仮名、61歳)が「糖尿病の疑いあり」と診断されたのは15年前のこと。当時は自覚症状もなく、“大したことないだろう”と放っておいた。
 それから4年ほど経ったある日、食事のたびに眠気が襲い、全身に倦怠感が。病院に駆け込んだところ「糖尿病です。3大合併症(神経障害、網膜症、腎症)のひとつである神経障害が出ています」と宣告された。

 当時の検査値は直近1~2カ月の血糖の状態を示すヘモグロビン(Hb)A1cが7.6%(当時の正常値は5.8~4.3)、空腹時血糖値は160mg/dl(正常値は110未満)だった。
 治療により、HbA1cが6.6%まで下がったものの、足底の灼熱感はやまず、それが原因で夜寝られなくなった。

「工藤さんは足底の灼熱感以外に足全体のピリピリ感やむずがゆさがありました。その後、夜中に突然こむら返りを起こして、跳び起きることが何回も続いたのです」

 辛院長は神経障害に効く薬や帯状疱疹による神経痛を抑える薬などを試したが、大きな改善は見られなかった。

 そこに登場したのがサインバルタ(一般名ディロキセチン)。もとは憂うつな気分を和らげ、意欲を高める薬でうつ病やうつ状態の治療に使われていたが、昨年から糖尿病性神経障害の薬として承認されている。

「素晴らしい効果がありました。飲み始めて4日目で足のピリピリ感や足裏の灼熱感が薄れたのです。1カ月もするとよく眠れるようになり、夜中にたびたび起きていたこむら返りもなくなったのです」

 しんクリニックでは糖尿病性のしびれや痛みに悩む患者32人(糖尿病の罹病期間9・36年、HbA1cの平均値7.2%、しびれや痛みが出てからの期間4・27年)にサインバルタを投与したところ、1カ月で90%以上の患者に症状の改善がみられたという。

「サインバルタは糖尿病性神経障害に伴う痛みやしびれに対する薬として世界98カ国で承認され、各国の治療ガイドラインの中で第1選択薬として推奨されています。そもそもヒトの中枢神経には痛みを伝える神経系と痛みを抑える神経系の2通りあり、この薬は後者を活性化させることで症状を抑えるのです」

 ただし、よく効く薬は副作用への配慮が必要だ。

 サインバルタの糖尿病性神経障害患者への国内安全性試験では傾眠、悪心(おしん)、高血糖、便秘、めまいなどの副作用が報告されている。
 それとは別に断薬・減薬時の離脱症状を訴えるうつ病患者もいる。
 使用に際しては、薬に詳しい医師と十分話し合うことが必要だ。