ご用心 気温が5度以上低下すると「命の危険」が上昇する

 急激に冷え込む日が増えてきた。寒くなると心筋梗塞や心不全といった心臓病、脳卒中や脳梗塞の患者が増えるという。厚労省の統計によると、心筋梗塞などの心臓病による死亡数は1月が最も多く、次いで2月、12月、3月と冬季に集中していて夏季の1.5倍に上る。

 とりわけ、寒くなり始めの時季は、前日に比べて気温が5度以上も下降した日が要注意だ。

 イギリス医師会雑誌の研究によると、気温が1度低下すると心筋梗塞の発症が28日間で2%増加するという。また、今年の欧州心臓病学会では、最低温度が10度低下すると7%増加する研究が報告された。別の研究でも5度低下すると15日間で5.7%の増加が認められている。

 欧州には〈クリスマス梗塞〉という言葉があるという。クリスマスに暖かいレストランで食事をしてから急に寒い店外に出ると、温度差によって心筋梗塞や脳梗塞を発症するケースが増えることから生まれた言葉だ。温度差は、血管を直撃するのだ。

 東邦大学医療センター佐倉病院循環器科の東丸貴信教授は言う。
「気温が下がって寒くなると、人は血管を収縮させて血管内を流れる血液の量を減らし、熱を体外に逃がさないようにします。また、代謝を活発にして体温を上げるために、アドレナリンなどが過剰に分泌されます。血管が縮んで細くなると、ポンプである心臓は大きな力で血液を送り出さなくてはなりません。そのため、血圧が上がり、大きな力を必要とする心臓の負担が増えるのです。さらに、アドレナリンの過剰分泌によって血液が固まりやすくなります。冠状動脈が細くなり血液が固まると、急性心筋梗塞になります。脳の血管でも同じようなリスクが高まります」

 実際、東丸教授の病院では気温が低下したこの1週間に心筋梗塞や不安定狭心症の患者が倍増したという。

<起床後の1時間以内は特に注意>

 肥満、糖尿病、高脂血症などの動脈硬化のリスク因子がある人はもちろん、高血圧だけでも危ない。自分は健康だと思っていても、温度差が血管に悪影響を及ぼすことに変わりはない。健康診断などで見逃される高血圧症、軽い動脈硬化や不整脈がある人も多いから注意が必要だ。

「急激な血圧の変化を防ぐため、寒い日に外出する時は厚手の服をしっかり着込み、帽子、マフラー、手袋などで防寒対策を万全にすることが大切です。家にいる時も、暖房による部屋ごとの気温差をつくらないよう気をつけてください。風呂の脱衣場やトイレも暖めておきましょう」(東丸教授)

 また、起床後の1時間以内は特に注意したい。朝、目覚めてから活動し始めるまでの間は血圧や脈拍が不安定になりやすく、そこに気温の低下が加わると発症リスクが上昇するからだ。

 目覚めてから5分程度、布団の中で手足を動かして起き上がる。外出する際は、家の中で軽い体操をしてから出かける。温かい飲み物を飲んで体の中から温めておくといった対策を心がけたい。何より、前日との気温差が大きい日は、血管に負担がかかっていることを意識して行動するのが重要だ。