鍛えて酒が強くなった人ほど危ない…急に“千鳥足”その元凶は?

“急にお酒が弱くなった”“酔いがすぐに回り、千鳥足になる”――。酒好きのなかには、心密かに“酒が弱くなったのは病気のサインでは?”と心配している中高年もいるのではないか。アルコール依存症の治療などで定評のある「慈友クリニック」(東京・高田馬場)の米沢宏院長に聞いた。

「お酒を飲んで気が大きくなるのは、理性をつかさどる大脳新皮質の機能がアルコールで麻痺し、抑えつけられてきた本能や感情をつかさどる大脳旧皮質(大脳辺縁系)が活発となるからです。麻痺が小脳まで広がると、千鳥足となって酩酊(めいてい)し、海馬を侵すと記憶が飛んで泥酔となる。呼吸中枢に達すると昏睡状態となって呼吸が止まり、死に至ります」

 口から入ったお酒は胃で20%、腸で80%吸収され、血液中に入って全身を巡る。

 その間、肝臓でアセトアルデヒド、酢酸に代謝され“無毒化”されるが、一気にすべて代謝されるわけではない。

 たとえば、体重60キロの人がビール中ビン2本(1000ミリリットル)飲むと、体内にアルコールが6~7時間とどまるという。その間、脳は麻痺したままだ。
「問題は、アルコールを分解する肝臓の能力は30代をピークに徐々に落ちていくことです。多くの人はそれを自覚していないため、たまにお酒を飲むと急にお酒に弱くなったと感じるのです」

 では、加齢以外の原因で急に酒が弱くなることはないのか?
「人間の体のなかでアルコールを代謝する酵素はADH(アルコール脱水素酵素)とMEOS(ミクロソームエタノール酸化系酵素)の2つ。MEOSは本来、薬の代謝に使われますが、お酒を飲み続けている人はADHで処理しきれないアルコールも代謝するようになります」
“下戸だったのに鍛えてお酒が強くなった”という人がこのタイプだ。

 しかし、こういう人が薬を飲むと危ない。MEOSは本来の仕事である薬の代謝に回り、アルコールの血中濃度が高止まりしてすぐに酔っぱらうからだ。

<心あたりがある人は気は要注意>

「風邪薬や鎮痛剤がこのパターンです。睡眠薬や安定剤はアルコールが加わることで薬効が強く出て、より早く酔っぱらった状態になったり記憶が飛んだりします。抗うつ剤を飲んでいる人もお酒を飲んではいけません。アルコールは中枢神経を抑制する作用があるのでお酒をたくさん飲む人はそれだけでうつの原因になります。うつの治療のために抗うつ薬を飲み始めたら、お酒をやめなければ効果は出ません」

 急に酔っぱらう人のなかには病気が隠れていることも。例えば肝臓の病気だ。肝臓に問題が起きればアルコールの代謝能力が落ち、脳への影響は長く、広範囲に広がる。
「肝臓に脂肪がつく程度では代謝が落ちることはありませんが、肝硬変が進むとすぐに酔いが回ります。糖尿病も“千鳥足”の原因です。糖尿病性の神経障害を患っていると、足の感覚が麻痺している場合があります。しかも、その中には、お酒好きが高じてアルコール性末梢神経障害を患っていることも。そうなると、普段は意識していなくとも、ちょっと酔っぱらうだけで足に力が入らなくなり、千鳥足になるのです」

 過去のお酒の強さを過信し千鳥足となって転倒、骨折するのはバカバカしい。心当たりがある人は気をつけよう。