これまでの治療が効かない「新型副鼻腔炎」とは?

 風邪をひいたことがない人はひとりもいないだろう。風邪をきっかけに発症する病気が、慢性副鼻腔炎だ。近年、慢性副鼻腔炎の新しいタイプである好酸球性副鼻腔炎が専門医の間で注目を集めている。どのような病気なのか? 東邦大学医療センター大橋病院耳鼻咽喉科・吉川衛准教授に話を聞いた。

 副鼻腔は、頬、目と目の間、おでこなど、鼻の周辺にある空洞だ。ここが風邪やインフルエンザなどのウイルスに感染すると、炎症を起こして腫れあがったり、うみがたまったりする。

 それが3カ月以上続き、慢性化したのが慢性副鼻腔炎だ。鼻水、鼻詰まりが主な症状で、悪化すると炎症が広がり、目の周りやおでこが痛くなる。鼻茸(はなたけ)というポリープができて、症状が一層悪化することもある。

「現在のスタンダードな治療は、マクロライド系と呼ばれる抗菌薬の服用。これで副鼻腔の炎症が治まらなければ、内視鏡を鼻の穴に入れ、鼻水やうみ、ポリープなどを取り除く手術が行われます。通常の慢性副鼻腔炎なら、これで完治します」

 ところが、手術まで至った患者の一部に、手術をしても再発を繰り返す傾向が見られた。

 以前は「難治性」とみなされてきたが、研究が進むうちに、いくつかの共通点があることが分かった。そのひとつが、鼻の粘膜に好酸球という白血球の一種が多く存在することで、2001年に「好酸球性副鼻腔炎」と名付けられた。

 では、好酸球性副鼻腔炎には、どんな治療が行われるのか?
「手術までは従来の慢性副鼻腔炎と同じですが、それ以降が違います。手術後さらに、副鼻腔に再び炎症を起こさないための『維持療法』が行われます」

 市販の鼻洗浄器で生理食塩水を副鼻腔まで入れて洗浄する。さらに、抗炎症作用を持つステロイドの点鼻薬を1日1回鼻に噴霧する。

 ステロイドの点鼻薬は全身に影響を及ぼさないので、骨粗しょう症などの重篤な副作用の心配はない。ただし、鼻洗浄と点鼻薬の維持療法で副鼻腔炎を抑えられない時は、一時的だが、ステロイドの内服になる。

「好酸球性副鼻腔炎は、原因がまだはっきりと分かっていません。残念ながら完治のための治療法もなく、維持療法は生涯続きます。しかし、その効果は大きく、日常生活に影響が出ないレベルまで症状は改善します」

 気になるのは、どういう人が従来の慢性副鼻腔炎ではなく、好酸球性副鼻腔炎が疑われるか、だ。診断基準は現在検討が行われている最中で、まだ確立していない。ここ数年中にはできる予定だ。

「現段階では、手術の時に採取した鼻の組織に好酸球がある数以上存在していれば、好酸球性副鼻腔炎の可能性が高いと判断し、手術後から鼻洗浄と点鼻薬を行ってもらいます」

 前述の通り、好酸球性副鼻腔炎には共通点がある。好酸球が多いという以外には、「鼻ポリープがある」「鼻汁がにかわ状(粘りが強い)」「嗅覚障害がある」「目と目の間辺りに炎症が集中している」「副鼻腔炎が鼻の両側にある」「症状が進行すると好酸球が多い耳だれ(耳漏)が出る」「喘息(ぜんそく)を合併している」など。

「いずれも『好酸球性副鼻腔炎なら絶対にある』というわけではありませんが、目安になります。何より、慢性副鼻腔炎と診断されていて治療を受けているのに症状がよくならなければ、好酸球性副鼻腔炎の可能性があります。CTなどの検査設備が整った耳鼻咽喉科を受診すべきです」

 だれがいつ発症してもおかしくない慢性副鼻腔炎だからこそ、知っておこう。

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