なかなか寝付けないのに、早朝に起きてしまう。夜中にちょっとした物音で何度も目が覚めて眠れなくなる……。年をとってから表れ始めた睡眠の悩みを抱えている中高年は多い。それが原因で、不眠症になってしまうケースもある。高齢者には高齢者に合った睡眠対策が必要だ。
全国で睡眠セミナーを開催している作業療法士の菅原洋平氏が言う。
「加齢とともに睡眠は変化していきます。睡眠時間が少なくなるのは、基礎代謝量が低下し、日中のエネルギー消費量も低下するからです。使われるエネルギーが少ない分、体が必要とする睡眠量は少なくなるのです。また、脳の働きも関係しています。脳は昼間にため込んだ情報を睡眠中に整理します。年齢を重ねると<過去の経験>が増えるので、新しい情報が入ってきてもそれをつなぎ合わせるだけで処理できるようになる。その分、睡眠時間も少なくて済むのです」
朝早く目覚めてしまうのは、<睡眠>と<覚醒>のリズムが前倒しになるからだ。睡眠は大きく<前半>と<後半>に分かれている。前半はぐっすり眠ることで成長ホルモンの分泌を促し、後半はすっきり覚醒するためにコルチゾールという物質を分泌させる。
高齢になると、積極的に成長ホルモンを分泌させる必要がなくなって量も減る。その分、後半のコルチゾールが優位になり、起床が早くなってしまうのだ。
「男性の場合、55歳を境目にそうした睡眠の崩れが表れます。しかし、それを知らない人が多いので<昔みたいに眠れなくなった>と動揺し、快眠グッズを買い漁ったり、無理に寝ようとして悪循環に陥る。それまで睡眠に悩んだ経験がない人ほどそうした傾向が強く、焦れば焦るほど眠れなくなるし、睡眠の質も低下します」(菅原氏)
高齢になったら、若い頃のような睡眠は必要ない。まずは、そうした認識を持っておく。そのうえで、睡眠の量より質を高める対策を講じたい。
加齢とともに夜中に目が覚めて眠れなくなった人は、目覚めた時に時計を見てはいけない。
「脳は起床する3時間前から覚醒を促すコルチゾールを分泌し始めます。夜中に目覚めた時、時計を確認して<3時に起きてしまった><今日も3時だ…>といった行動を繰り返すと、脳には<3時に起床する>というプログラムが組まれ、それに合わせてコルチゾールの分泌を開始してしまうのです」(菅原氏)
目覚めても時間は確認せず、<自分は○時に起きるんだ>と起床する時間を頭の中で3回繰り返す。それだけで脳はプログラムし直し、コルチゾールの分泌をコントロールできるようになる。
年をとって寝付けなくなった人は、就寝時間を30分ずつ遅らせていく。
「睡眠時間が短くなってくると、少しでも長く寝ようとしてベッドに入る時間を早くする人が多い。でも、結局は何時間も寝付けずにベッドの中で焦ってしまう。この発想を逆にして、寝付けないなら無理に寝ようとせず、就寝時間を後ろに遅らせていく。起床から4時間後に眠気がなければ、睡眠時間は足りています。無理に長く寝ようとする必要はありません」(菅原氏)
起きて覚醒している時間が長ければ長いほど、その後の睡眠が深くなる<睡眠圧>という作用がある。寝付きが悪く、朝早く目覚めてしまう高齢者は、睡眠圧を高めてコンパクトに深く眠れば問題ない。睡眠時間を補おうと昼寝をしたり、早くベッドに入るのは逆効果だ。
「ベッドに入ってから15分眠れなかったら、ベッドから出てください。ベッドの中で<眠れないかも>と思い始めるタイミングがだいたい15分です。本を読んだり、軽くストレッチをするなどして、眠くなってきたら再びベッドに入ればいい」(菅原氏)
これを繰り返していくうちに、ベッドに入るとコンパクトに深く眠れるようになってくる。