<適切な入浴なら健康になれる>
めっきり寒くなった。ゆっくり風呂につかって体を温めたいという中高年も多いに違いない。シャワーを浴びるだけで済ませるよりも、湯船につかって入浴する方が健康にいいといわれている。免疫力アップ、疲労回復、ストレス解消などに効果があるという調査もある。
東邦大学医療センター佐倉病院循環器科の東丸貴信教授は言う。
「適切な入浴は、体全体に効果的だという報告はいくつもあります。浴槽のお湯の温度は上限41度、時間は10分以内、お湯には胸までしかつからないというのが適切な条件です。正しい入浴をすると、動脈、静脈、肺循環系といった全身の血管が拡張し、心臓が血液を押し出したり、戻ってくる際の負荷が減ります。血圧も下がり、少ない力で多くの血液を循環させることができる。心臓にとっては理想的な状態になります。心臓に持病を抱えている人にも、適切な入浴は心臓への負担を減らす治療法といっていいでしょう」
また、血管内の抵抗が減ると血液の粘度が下がるため、血液はサラサラになる。多くの血液が循環するようになるため、体全体により多くの栄養素や酸素が供給され、代謝や免疫力もアップするという。
シャワー文化の米国でも、こうした入浴による健康増進効果が注目され、最近は気泡風呂などでお湯につかる人が増えているという。やはり、湯船につかるのは体にいいのだ。
しかし、間違った入浴をしていると、健康どころか命に関わるリスクが増大する。
死亡統計からの推計では、日本では年間約1万4000人が入浴中に死亡しているとみられている。全体の9割近くが65歳以上の高齢者で、12月、1月の冬季が圧倒的に多い。温度差によって、血管や心臓への負担が大きくなり、風呂で倒れてそのまま溺死するケースも目立つ。
「42度以上のお湯に10分以上つかっていると、高温によって心臓そのものがダメージを受けることに加え、交感神経が興奮して心拍数や血圧が上昇し、心臓の負担が増えます。循環血液量も減少するうえ、脱水によって血液の粘度が増し、血栓ができやすくなる。そのため、心筋梗塞や脳梗塞を起こしやすくなるのです」(東丸教授)
雪がちらつく中、寒さをこらえながら熱い湯を張った露天風呂にザブン――なんて温泉でありがちな行動は自殺行為といっていい。
風呂で倒れて溺れたくなければ、適切な入浴を心がけたい。
熱~いお湯に肩までつかるのが好きな人も多いだろうが、お湯の温度は38~41度程度とぬるめにする。湯船につかっている時間は10分以内にとどめ、肩までお湯につかるのもやめる。
「温度差が血管や心臓に大きな負担をかけるので、入浴する前に脱衣場や浴室を暖めておいた方がいい。いきなり湯船につかる行為は避け、心臓に遠い足などから順にシャワーなどでぬるいお湯をかけて体を慣らしていく。それから湯船に入り、ゆっくり体を沈めていくようにすれば、リスクを軽減できます」(東丸教授)
どうせ風呂に入るなら、適切な入浴法で健康になろう。