目標値はそれぞれ コレステロール値は一律で下げなくていい

 コレステロールの数値が高くなると、動脈硬化が進行し、心筋梗塞や脳卒中などの重大病のリスクが高まる。だから下げなくてはならない――。こう考えている人がほとんどだろう。

 しかし最近、その考え方が変わってきた。下げすぎてもよくなく、一律に同じ数値を目標にするのではなく、“条件”で目標値を変えなくてはならないというのだ。

 やみくもにコレステロール値を下げなくていいという“新常識”は朗報だが、それなら自分はどの数値を目標にすればいいのか? 九段クリニック・阿部博幸理事長に聞いた。

 まずは、【心筋梗塞や脳卒中などを起こしたことがない人】についてだ。

 コレステロールには総コレステロール、LDL(悪玉)コレステロール、HDL(善玉)コレステロールの3つがある。このうち、心筋梗塞や脳卒中のリスクを上げるのがLDLコレステロールだ。

 さらにほかのリスク因子として、(1)加齢(男性45歳以上、女性55歳以上)(2)高血圧(3)糖尿病(4)喫煙(5)家系に心筋梗塞や脳卒中を起こしたことがある人がいる(6)HDLコレステロールが40未満――の6つがある。(1)~(6)のうち、該当する項目はいくつあるかを、まずチェックする。

「血管に付着したLDLコレステロールが活性酸素によって酸化すると、血管が傷つきやすくなり、もろくなります。血栓(血液の塊)もくっつきやすくなり、血液の通り道が狭くなる。それが動脈硬化の進行につながるのですが、実はLDLコレステロールが多少高い程度では問題ない。それよりも、血管を傷つける因子をどれくらい持っているかが重要なのです」

 そこで、LDLコレステロールの目標数値は、(1)~(6)の該当数によって変わる。(1)~(6)のうち該当数がゼロなら160未満、1~2個なら140未満、3個以上なら120未満が目標だ。

「LDLコレステロールの本来の基準値は140未満です。しかし、ほかのリスク因子がなければ目標数値は多少甘く定めても構わないし、逆にリスク因子が多ければ厳しく定めなければならないのです」

 次に、【心筋梗塞や脳卒中などを起こしたことがある人】だ。再発予防のために、目標数値はよりシビアになる。

「(1)~(6)の該当数は関係なく、LDLコレステロールは100未満を目標にします」
 コレステロールへの考え方が変わってきた背景には、いくつもの研究結果がある。特に有名なのは3つの研究だ。

「ヘルシンキの『ビジネスマン研究』では、心疾患の危険因子を持った会社役員を2群に分け、一方の群は最初の5年間降圧薬、高脂血症薬を服用してもらい、食事介入を15年間続けました。もう一方の群は、特に何も行いませんでした。すると、研究を開始して10年目ではどちらの総コレステロールも差が出ず、15年目には、薬を飲み、食事介入を行った群は、心疾患死亡率が2.4倍、総死亡率が1.4倍高かったのです」
 伊勢原市民を8年間追跡調査した結果でも、総死亡率が最も低かったのは男性でLDLコレステロール140~159、女性で120~130。茨城県民を10年間追跡調査した結果では、LDLコレステロール80~140のうち、数値が高いほど死亡率は低かった。

「コレステロールは細胞膜の構成要素です。コレステロールが低いと、細胞膜が脆弱(ぜいじゃく)な細胞になる。それが病気の発症率の高さに関係していると考えられています」

 生活習慣改善にやる気が出た?

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