日本はなぜ先進国で唯一エイズ患者数が増加しているのか?

 エイズは決して他人事の病気ではない。

 厚労省はエイズに関する国内のデータを年4回発表しているが、8月の報告では、4~6月のエイズウイルス新規感染者・発症者は440人で、新規発症者は146人と過去1位。ほぼ男性で、40代以降が約7割だ。

 日本は、先進国の中で唯一エイズ患者が増加している国だ。来る12月1日は世界エイズデー。最近のエイズ事情について、国立国際医療研究センターの岡慎一エイズ治療研究開発センター長に話を聞いた。

「発症者が増加し続けているのは、エイズ検査を受けている人が少ないという点に尽きます。特に中高年は少ない。しかし、エイズ検査で感染の有無を知るのと知らないのでは、天国と地獄ほどの差があります」

 エイズは不治の病というイメージが強いが、それは15年ほど前の話。
「1日1回薬を服用すれば、エイズウイルスの増殖をほぼ抑えられます」
 コンドームなしのセックスは決して勧められないが、たとえ「なし」でしても、薬を服用していればパートナーへの感染はほとんどない。

「薬の服用で母子感染も1%以下に抑えられるようになりましたし、アメリカやイギリスではこの10年、医療者の針刺し事故によるエイズウイルス感染の報告はゼロです」
 一生薬を飲み続けなければならないので正確には「治る」わけではないが、感覚的には「治る」とほとんど同じなのだ。

「ただし、これは発症前に治療を受けた場合。エイズを発症すると、悪性リンパ腫や脳内の疾患、肺炎などさまざまな病気のリスクが高くなります。発症前なら治療はエイズウイルスの増殖抑制に集中できますが、発症後はエイズ発症で二次的に発症したそれらの疾患の治療も必要になります」

■治療しなければ100%発症

 悪性リンパ腫や脳内の疾患なら死に至ることもある。セックスパートナーに感染させる可能性も、もちろん高い。それが「天国と地獄ほどの差」といわれる理由なのだ。

 エイズウイルスは、治療しなければ100%発症する。これまで感染から発症まで5~10年といわれていたが、その期間は短くなってきている。

「エイズウイルスが日本人の血液の型になじんだのです。そのため、自己免疫力で発症を抑えづらくなった。感染から3年もたたないうちに発症する人が増えています」
 エイズウイルスの検査は保健所で匿名・無料で受けられる。医療機関では自費(病院によって違うが2000~5000円程度)になる。

「検査結果が陽性となると、エイズ治療の専門機関を紹介されます。免疫力がある一定の数値以下なら公的補助が受けられ、月5000~2万円で治療が受けられます」
 公的補助が受けられない場合は、健康保険適用の3割負担で7万~8万円の治療費がかかる。

「世界のエイズに対する考え方は、エイズ感染拡大を防ぐために、感染が見つかれば全員が治療を受ける方針です。しかし日本では個人の病状を中心に見ているので、免疫力がまだそれほど下がっていなければ、公的補助が下りません」

 不特定多数の人と性交渉しない、する時はコンドームをつけるなどがエイズの対策だが、それ以前にまず、検査を受けて感染の有無を調べること。性行為の経験があれば、だれでもリスクがある。それがエイズだからだ。