5年以内死亡率は30% がんより怖い「下肢閉塞性動脈硬化症」

 Aさん(59)は、50代半ばから足の冷えが悩みだった。触るとひんやりしている。冬は事前に布団をコタツなどで温めておかないと、足が冷えてよく眠れなかった。

 そのうち、数百メートル歩くと足が痛んで歩けなくなってきた。休むと痛みが取れるが、数百メートル歩くとまた痛む。近所の整形外科を受診したが、レントゲンを撮っても異常が見つからなかった。

 そんなAさんが脳梗塞を起こしたのは、昨年のことだ。幸い命は助かったが、半身不随の後遺症が残ってしまった。

 よくある症状と思いがちだが、「足の冷え」は絶対に放置してはいけない。Aさんの二の舞いになりかねない。東邦大学医療センター大橋病院循環器内科・中村正人教授が言う。

「下肢閉塞性動脈硬化症の可能性があります。米国のデータになりますが、発症5年後の心筋梗塞や脳卒中などの血管障害で亡くなる方は30%にのぼり、数%は下肢の切断に至るといわれています」

 ある種のがんと比べると、「がんよりも怖い病気」が下肢閉塞性動脈硬化症なのだ。中村教授に詳しく聞いた。

■「足の冷えくらいで…」と甘く見ると…

 血管に脂肪やコレステロールが蓄積し、血液の通り道が狭くなる動脈硬化は、全身の血管に起こる。下肢閉塞性動脈硬化症は、全身の動脈硬化のうち、最も心筋梗塞や脳卒中を起こしやすく、死に直結しやすい動脈硬化だと考えられている。

「下肢の血流が悪くなり、酸素や栄養が十分に運ばれなくなります。すると、足が冷えてきます。顔色ならぬ“足色”が、健康的な色ではなくなります。間欠性跛行(はこう)といって、200~300メートル歩くと足が痛くなって歩けなくなる。休むとまた歩けます。さらに進行すると、足先に栄養が運ばれなくなり、深爪した、水虫ができた、といったちょっとしたことでできた傷が治らず、切断に至る場合もあるのです」

 自分で活動範囲を制限してしまうため、自覚症状はそう強く出ないことがまれではない。下肢閉塞性動脈硬化症と診断された患者は口をそろえて「そういえば……」と言う。早期発見につながるサインを決して見逃してはいけない。

 下肢閉塞性動脈硬化症は(1)50歳以上(2)喫煙者(3)高血圧(4)糖尿病(5)脂質異常症(6)肥満――のうち該当する項目が多いほどリスクが高い。

「冷えくらいでは患者さんはなかなか検査を受けに病院に来ない。そのため知らないうちに症状が進行してしまっている人が多いのです」

 下肢閉塞性動脈硬化症の病期は4つに分けられる。Ⅰ度は「冷えやしびれを感じる」、II度は「ある一定の距離を歩くと痛くて歩けなくなる。休むとまた歩ける」、III度は「安静時も痛みが生じる。特に夜間に多い」、Ⅳ度は「皮膚がじくじくする。足が変色している」。せめて、II度までには受診すべきだ。

「III度やⅣ度になると、治療に時間を要し、下肢閉塞性動脈硬化症の治療を多数行っている医療機関を受診しても、下肢切断に至る場合があります」

 冒頭のAさんのように、整形外科の疾患だと思い、下肢閉塞性動脈硬化症発見のチャンスを逃してしまうこともある。発症リスクを上げる6つの項目のうち、特に(2)~(6)のどれか1つでも覚えがあれば、循環器内科も受診した方がいい。

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