「レーシックに要注意!」――。消費者庁が視力を回復させるレーシック手術を安易に受けないように呼びかけている。
手術を受けた後、目に何らかの被害を受けたという報告が4年半で80件寄せられたという。〈光がにじむ〉〈目が痛い〉〈ドライアイ〉といった被害が報告され、中でも多かったのは〈過剰な視力矯正によって遠視になった〉というケースだ。
遠視は遠くはよく見えるが、近くの物がぼやけて見づらくなる。つまり老眼だ。眼科専門医で「清澤眼科医院」(東京・江東区)の清澤源弘院長が言う。
「人間の目には、はっきり見えるようにするためのピント調節能力があります。ピントを合わせる働きをしているのは目の中にある水晶体で、近くの物を見る時は、水晶体の周囲にある毛様体という筋肉を縮めて水晶体の形や厚さを変え、ピントを合わせています。年をとると水晶体が硬くなり、毛様体筋も衰える。水晶体を変形させて厚くすることができなくなるため、近くの物にピントが合わなくなるのです」
10歳なら目から8センチの距離でもピントを合わせることができるが、30歳になると14センチ、40歳では22センチ、50歳になると50センチと、年をとるごとに手元が見づらくなってくる。60歳になると目から1メートルの距離がないとピントを合わせられなくなるため、老眼鏡が必要になる。
■手元が見づらくなる
レーシック手術を受けると、遠くが見えない近視でも、近くが見えない遠視でもない状態になると期待している人がほとんどだろう。しかし、実際は、“近視をなくして遠視にする”ようなもの。中高年にとっては、老眼に悩む時期を早めてしまうことにもなりかねない。
「レーシック手術は角膜をレーザーで削り、屈折率を変えて遠方視力を向上させるものです。その際、裸眼視力を確実に1.0に仕上げようとするため、遠視方向に過矯正するケースが多い。これなら、仕上がりが少しぶれたとしても1.0の視力を出すことができるからです。しかし、近視をなくして遠視気味に削ってしまうので、手元が見づらくなります。年をとれば、誰でも老眼になります。レーシック手術は、遠視=老眼になるタイミングを自分で早めてしまうことになるのです」(清澤院長)
パソコンを使って作業する機会が多い45歳のグラフィックデザイナーがレーシック手術を受けたところ、画面がぼやけて見づらくなってしまった。ピント調節のために老眼鏡を試しても改善せず、どうにもならないと頭を抱えている例もある。近視でメガネをかけている人は、メガネのレンズによって遠方がはっきり見えるように調節している。老眼になって手元が見づらくなったら、メガネを外せばピントを合わせることができる。
しかし、レーシック手術を受けてメガネがなくても遠方がよく見えるように“改造”してしまうと、老眼になった時に〈メガネを外して手元のピントを合わせる〉という行為ができなくなる。結局、近視用のメガネをかけている人よりも、早い段階で老眼鏡が必要になるなんてケースもあるのだ。
「一般的な生活を送っていて、2メートル以上遠くの物をはっきり見なければならない機会はほとんどありません。年をとれば外出する機会も減ってくるし、さらに手元の範囲での作業が多くなります。それなのに、レーシック手術を受けて遠方視力を向上させ、手元が見づらくなる老眼に直面するタイミングを自分で早めてしまっている。老眼が間近に迫っている40歳を過ぎてからレーシック手術を受けるのは、デメリットの方が大きいと考えられます」(清澤院長)
レーシック手術を検討している中高年は、よくよく考えた方がいい。