推定530万人 COPD(慢性閉塞性肺疾患)に新リハビリ

 国内推定患者数が530万人といわれるCOPD(慢性閉塞性肺疾患)は、空気の通り道である気道や肺に障害が生じる病気だ。進行すると少し動いただけで激しい息切れを生じ、日常生活に支障をきたす。さらには、呼吸不全や心不全を起こして命に関わる。全身に影響を及ぼし、脳・心血管障害、全身性の炎症、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)、糖尿病などのリスクを上げることも分かっている。発症すると進行スピードを緩やかにするしか手がないCOPDだが、最近、生活の質をよくするのに役立つとして、新たな呼吸リハビリ法が注目を集めている。国立病院機構茨城東病院リハビリテーション科・稲村真治理学療法士に詳しく聞いた。

 稲村氏がCOPD患者に行っているのは、旧ソ連が宇宙飛行士の筋力アップのために開発したWBV(Whole Body Vibration)という運動器具を用いたリハビリ法。WBVを使うきっかけになったのは、「COPD患者は、息苦しさのためにリハビリを続けられない」という問題を解決するためだったという。

「COPDの患者さんは動くと息苦しいため、極力動かない〈息苦しくない生活〉を送るようになります。それは身体機能の失調や低下につながり、筋力低下、筋肉周囲の毛細血管床やミトコンドリアの減少などを招き、病状を悪化させます」

 すると息苦しさが増してより動かなくなり、さらなる身体機能の失調や低下につながる。まさに、負のスパイラルだ。

「それを断ち切るために下肢の筋力アップを目指すリハビリが非常に有効であることは、さまざまな研究で明らかになっています。12段階の息苦しさの目安のうち、3~5段階、つまり〈息苦しい〉から〈大変息苦しい〉までは頑張ってもらうのですが、現実的には難しい」

 これを乗り越えれば生活の質が上がると説明しても、ギブアップしてしまう患者も少なくない。そこで目をつけたのが、WBVだった。

 円形の器具の上の長方形の板が、イメージとしてはシーソーのように、真ん中を中心に上下に動く。1秒間に20~24回(目安。調整可能)という小刻みな動きだ。

「長方形の板の上に患者さんに立ってもらいます。板の上下の動きに応じて、自然に筋肉は伸びたり縮んだりという動きをします。これが筋力アップ、そして運動能力の向上になるのです。血流も非常によくなるので、乳酸がたまりにくい。乳酸は疲労や息切れの原因になります」

 WBVを使わず床の上で通常リハビリを行った群との無作為化比較対照試験(全40分間のリハビリを週2回、24回実施)では、運動能力や息切れなどで明らかな有意差が出た。

 COPD患者の運動能力を評価する6分間の歩行距離の比較では、WBV群は69メートル延びたが、床の上群は31メートル。健康状態を評価する質問票への回答も、床の上群は改善は見られなかったが、WBV群は好成績だった。

「現在、COPD患者さんのリハビリには基本的にWBVを使っています。以前は苦しい、つらいと訴える患者さんも多く、続けられない方もいましたが、〈WBVならやりたい〉と言う方が多い。モチベーションの維持や向上にもなっているのです」

 重症COPDで寝たきりになり、肺移植しかないと言われた患者が、WBVを使ったリハビリに取り組んだところ、なんとか続けられ、今では自分で行動でき、日常生活を普通に送れるまで回復した例もあるという。
「負のスパイラルに陥る前に、早い段階でリハビリを取り入れることが非常に重要です」
 記者もWBVを体験してみた。純粋に楽しい! 普及が待ち望まれる。

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