来年早々にも発売 日本初「肥満症治療薬」の利点難点

 ダイエットしたいが、基礎代謝が衰えているせいか、食べ物を我慢しても、運動してもなかなか痩せられない――。そんな肥満に悩む人に朗報だ。日本初の脂質吸収を抑える肥満症治療薬「セチリスタット」(商品名オブリーン)が来年早々にも登場する見通しなのだ。

「新しい薬は体内で脂肪を分解する酵素(リパーゼ)を働かないようにして、体内への脂肪の吸収を抑えて体重を減らすというもの。BMI(体重を身長の2乗で割った数値)が25以上の肥満症で、糖尿病と脂質異常症のある人に適用されます」

 こう言うのは糖尿病専門医で、「しんクリニック」(東京・蒲田)の辛浩基院長だ。

■1年間で6.7キロ痩せた!

 製薬会社が約200人を対象に1年間行った治験では体重減少の効果は2%だった。
“なんだ、たかがそれっぽっちか”と思う人もいるだろうが、これはあくまでも平均。人によっては7キロ近く減量に成功した人もいたという。

「飲酒・喫煙の習慣のある44歳の女性は1日3回、1年間この薬を服用したところ、ウエスト103センチが100センチ、体重81キロが74.3キロ、8.2%だったヘモグロビンA1cが6.5%に減少しました。中性脂肪も177mg/dlから88に減少したのです」(辛院長)

 ちなみにこの女性は薬を飲んだ1年間は、とくに食事も変えず、運動もしていなかったという。それだけ薬の効き目が凄いということだ。

■問題は排便時の便器がベトベトに

 問題は脂肪便だ。この薬は体に吸収されなかった脂肪を便として流すため、排便時に便器がベトベトになるという。

「最初は少し驚かれると思います。脂肪が便器にこびりつくからです。ただし、慣れれば薬の力を実感できるため、他の薬のように飲み忘れは少なくなるでしょう。また、女性は便秘が多いのですが、便が脂肪でコーティングされる感じで、スルリと出て便秘が解消されるメリットもあります」(辛院長)

 これまで肥満の解消を目的とした薬としてはマジンドール(商品名サノレックス)があるが、こちらは脳に作用して食欲を抑制する薬。BMI35以上の高肥満の人が対象だ。脂質の代謝を上げることで肥満症を改善する薬はあっても、セチリスタットのように、肥満症の治療薬は他にない。

 肥満は中高年の大きな悩みであり、太った人の減量はあらゆる健康の基本。それだけに大いに期待されていいはずだが、発売にはストップがかかっているという。

「既に9月に厚生労働省の製造販売承認を受けており、11月の中央社会保険医療協議会(中医協)で薬価が決まり、年内の発売が予定されていたのです。ところが、その中医協で“体重100キロの人なら2キロしか減らないじゃないか”“肥満は病気じゃない。保険で賄う必要はない”などの異論が噴出、価格が決まらなかったのです」(厚労省関係者)

<食欲に負けて勝手に太ったくせに、税金で補助された薬で治すというのはおかしい>との気持ちはわからなくはないが、それなら病院の減量のための食事指導、運動指導はどうなのか? そちらも保険適用を取り消すべきじゃないのか? そんな疑問も出てくる。

「私は体重の減少率が大きくないからといって効果がないとは思いません。この薬で痩せる効果が大きいのは内臓脂肪型の肥満です。その体重減少は糖尿病や脂質異常症に限らず、あらゆる面で健康に貢献すると考えられるからです。例えば、膝痛や腰痛の改善も期待できます。なにより、痩せにくい中高年が痩せられれば、それが励みになって食事療法や運動療法に努めると思われるからです」(別の糖尿病専門医)

 痩せたくても痩せられない中高年の気持ちを酌んで欲しいところだが……。