この春承認 “糖尿病新薬”はどのくらい画期的なのか!?

 糖尿病の新薬が今春承認される見込みとなった。これまでとメカニズムが全く違うため、「糖尿病治療において画期的なことになるだろう」という専門医の声も多い。どういう薬なのか? 糖尿病専門医である加藤内科クリニック(東京・葛飾)の加藤光敏院長に話を聞いた。

 新薬の名前は、「SGLT2阻害薬(ナトリウム・グルコース共輸送体2阻害薬)」という。現在、6品目が製造販売承認を申請中だ。このSGLT2阻害薬のメカニズムを理解するには、腎臓の役割を押さえることから入った方が分かりやすい。

「心臓から送られた血液は、腎臓の糸球体で濾過(ろか)されて、“原尿(尿のもと)”が作られます。1日あたりで作られる原尿は、150リットル余りと風呂おけ(浴槽)分ほどあり、この中からナトリウムやグルコース(糖)といった体に必要な成分が尿細管から再吸収され、1.5リットルほどの尿が排出されます。つまり、原尿の99%は、体に再吸収されるわけです」

 血糖値上昇に関係するのは、糖だ。本来は人間が生きていく上で必要なものとして再吸収される糖だが、体内の糖が過剰になると、インスリンが十分に機能しないようになり、血糖値が高い状態が続く。

 高血糖は、毒となって血管を傷める。それを阻止するために、糖を再吸収せず、尿中に排出しようと体は働く。健康診断などで「尿糖が出ている」と言われるのは、この状態を指す。なお、空腹で尿糖が出たら放置できない大変な高血糖である。

「高血糖だと尿糖が出るので、これまで尿糖は糖尿病の悪化を示す指標のひとつでした。しかし、今回の新薬はこの発想を違う面から捉えて開発されたものです。普通は血糖が160~180mg/dlを超えると尿糖が出るようになりますが、血糖がもっと低いうちから薬で再吸収を抑え、尿糖として捨ててしまおうという新発想の薬なのです」

 腎臓には、糖を再吸収する輸送体としてSGLT1とSGLT2がある。輸送体は、必要に応じて開く穴のようなものと考えると分かりやすい。このうち、主に働いているのがSGLT2。新薬は、SGLT2の働きを阻害することで、糖の再吸収を防ぎ、そのまま尿として出すようにするわけだ。

 過去には実験用の薬でSGLTの1と2の両方を阻害するものもあった。しかし、SGLT1を阻害すると、小腸での糖の吸収に作用して、消化管障害が起こるリスクが高くなることが分かったので、新薬ではSGLT2だけに作用するようになっている。

「この薬のメリットは、腎臓からの糖の再吸収を阻害するだけなので、血糖値が下がりすぎない。従来の糖尿病治療薬の中には、低血糖の副作用がありましたが、その心配の少ない薬です。体内の糖が減少するので、体重もある程度減少します」

 ただ、一方で、血糖値を下げすぎないということは、効果がそれほど強くないということ。血糖コントロールが非常に悪い人には、少なくともSGLT2阻害薬を1種類だけ使用、というのは難しいだろう。

「全く新しい薬なので慎重に使用していくことが大切です。特に女性で膀胱(ぼうこう)炎を繰り返している方はやめておいた方がいいでしょう。現在の薬で治療がうまくいっている人は、今のままでいいと思います。糖尿病に加え、肥満、脂質異常症、低血糖を何度も起こすといった人は、担当医に相談するのも手でしょう」

 覚えておこう。

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