薬が効かない7割の人に吉報! うつ病は「磁気刺激」で治す

 うつ病が「きっちり治る」時代に、また一歩近づいた。薬が効かないうつ病を改善する「反復経頭蓋磁気刺激療法(rTMS)」に注目が集まっているのだ。

 欧米では実用化されていて、日本でも先進医療、または医師主導治験による薬事承認のプロセスが検討されているところだ。rTMSの第一人者、杏林大学医学部付属病院精神神経科・鬼頭伸輔医師に話を聞いた。

 うつ病治療の第1ステップは、抗うつ薬を用いた薬物療法。SSRIやSNRIが主に使われる。

「これらを数種類服用して寛解(症状が消え、社会生活が送れる状態)に至る人は3割。7割はなかなかよくなりません」

 SSRI、SNRIで十分な効果が得られなければ、典型的な治療に反応性を示さない“難治性うつ病”と定義される。第2ステップとして、“マイルドな抗うつ薬”といわれるSSRIやSNRIに対し、“強力な抗うつ薬”である「三環系」と分類される抗うつ薬や、気分安定薬であるリチウムを用いた治療が行われる。

「現在、rTMSは、三環系やリチウムの前の段階で用いると有効ではないかと考えられています。治療の流れとしては、まずSSRIやSNRIを1種類6週間服用して駄目、次に2~3種類を4~6週間でも駄目という場合、rTMSを検討することになります」

 rTMSは、頭に特殊な刺激装置を置いて、頭蓋内に磁場を誘導させて神経を刺激するもの。

「うつ病は、感情をつかさどる脳の扁桃体や脳梁膝(のうりょうしつ)下部の働きが過剰になり、記憶や行動の切り替え、反応抑制など認知・実行機能をつかさどる前頭前野の働きが低下することで発症すると考えられています。rTMSは前頭前野の神経を刺激し活性化させて、扁桃体や脳梁膝下部の働きを正常レベルに抑制しようというものです」

■安全性が高く、つらい副作用もない

 アメリカの研究で、1~4種類のSSRI、SNRIが効かないうつ病患者300人を2群に分け、半数に本物のrTMS、半数に偽物のrTMSを行ったところ、本物の群の15~20%が改善。次に、全員に本物のrTMSを行ったところ、30~35%が寛解に至った。
「当院でも複数の抗うつ薬で改善しなかった130人にrTMSを実施すると、30%の人が寛解しました」

 rTMSのメリットは、安全性が高く、薬のように吐き気、眠気、性機能障害、急激にやめた場合のセロトニン離脱障害といった全身性の副作用が起こらないことだ。もちろん、副作用がないわけではなく、頭痛や刺激を与える箇所の痛みを訴える人もいるが、耐えられないほどではない。けいれんの副作用も指摘されているものの、0.1%未満とわずか。

「SSRIやSNRIを3種類服用しても寛解に至らない場合、4剤目の薬を試した時の寛解率は約7%ですが、rTMSだと18%です。これもメリットだと思います」

 一方、デメリットは患者の時間的負担が大きいこと。rTMSは1回約40分かかる。これを週5日、4~6週間続けなくてはならない。通院で受けるにしろ、入院で受けるにしろ、拘束時間が長い。ちなみに、メリットの箇所で“痛みは耐えられないほどではない”と述べたが、これは、やり始めは痛いが、回数を重ねるうちに“痛みを感じなくなる”という意味も含まれている。

「従来のうつ病治療の第3ステップは脳に電気けいれんを与える電気けいれん療法です。しかし、rTMSが普及すれば、第1ステップと第2ステップの間にもうひとつ治療法が入ることになり、選択肢が増えます」

 実用化が待ち望まれる。

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