出血の様子に注意! 痔と思ったら「大腸がん」の可能性も

「また、痔(じ)の悪化か」
 Aさん(55)はトイレでため息をついた。便器の中で浮く便に血がところどころ混じっているのがはっきりと分かる。

 Aさんは20年来の痔主だ。痔には痔核(イボ痔)、裂肛(切れ痔)、痔ろう(あな痔)の3つがある。Aさんは裂肛。発症当時は頻繁に肛門からの出血を繰り返していたが、この10年は妻が作る野菜中心の食事と朝晩のウオーキングで排便がスムーズになり、痔の症状は安定していた。

 ところが1年前に離婚。外食中心になった途端、便秘を繰り返すようになり、最近は便に血がよく混じるようになった。裂肛特有の排便時の激しい痛みはなかったので、病院には行かず、市販薬で様子を見ていた。

 そんな生活が半年ほど続いた頃、会社の健康診断で、大腸がんを調べる便潜血反応が陽性という結果が出た。

 病院での2次検査で、大腸がんのひとつであるS字結腸がんが分かった。
「痔の悪化ではなく、がんによる出血だったと思います」と医師から指摘を受けた。
 肛門からの出血の原因はさまざまだが、もしがんによるものなら早い治療が必要だ。

 どういう場合が要注意なのか? 千葉・野田のキッコーマン総合病院院長で日本消化器外科学会専門医である久保田芳郎医師に話を聞いた。

「肛門から真っ赤な血が突然出た場合は、ほとんどの人が、がんを疑ってすぐに病院に来ます。しかし、痔などで出血することがこれまでにもよくあった、見た目にはすぐ分からないわずかな出血が続いていたというような場合は、重要視せずに放置し、病状が悪化してから来院するケースが少なくありません」

 肛門からの出血の原因は、次の項目に大きく分けられる。
「(1)大腸がん(2)潰瘍性大腸炎をはじめとする消化器疾患の炎症(3)痔、の3つです。それぞれ出血の様子が異なります」

 (1)は、血が便に混じっている。大腸がんは直腸がん、S字結腸がんがトップ2で、肛門に近い場所ほど血の色が赤い。ただ、大抵は“真っ赤”というより“どす黒い”といった感じだ。

 (2)は、どちらかというと軟便で、ドロドロした便に血が混ざっている。トマトケチャップのような、ドローッとした赤みがかった便。

 (3)は、(1)のように「血が便に混じる」ではなく、血が肛門からポタポタ、あるいはピューッと出るような出血。肛門を拭いたトイレットペーパーに血がつく。血の色は真っ赤なことが多い。

「どの場合も一度は病院で検査を受けて欲しいのですが、特に(1)は、消化器科の早めの受診を勧めます。(2)も、大腸がん以外の消化器系のがんや、胃潰瘍などの炎症の原因を調べた方がいい」

 冒頭のAさんは典型的な(1)の出血。加えてチェックすべきだったのは、“いつもの痔の症状”があるかどうか、だった。
「痔核は肛門からイボのようなものが出る。切れ痔は硬い便で肛門が裂けて起こるので、肛門部分に激しい痛みが生じ、排便後もしばらく消えない。痔ろうは、肛門の周囲の皮膚が腫れて痛みます。肛門から出た膿(うみ)が下着につくこともあります。以前から痔がある人なら、これらの経験が必ずあるはずです」

 裂肛のAさんは、「排便時の激しい痛み」はなかった。その時に、何かおかしいと感じるべきだった。

 ちなみに、大腸がんには便が出にくい、残便感、便が細くなる、腹痛、腹部膨満感などの症状もあるが、それらはがんが進行しないと出てきにくい。

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