痔にあらず…お尻から“大量出血”は「大腸憩室」が原因

 大腸憩室は、この10年間で患者数が2倍に急増している病気だ。お尻からの出血で救急搬送される患者の半数は大腸憩室出血だという。最近、大腸憩室の新治療法が注目を集めている。聖路加国際病院消化器内科・石井直樹医師に話を聞いた。

「大腸憩室は、腸の中の圧が高まって大腸の壁の一部が外に飛び出す病気です」

 その様子は、餅を焼いた時にプックリ膨れ上がるところと似ている。

「大腸は横行していますが、欧米人は左側のS状結腸の壁が外に飛び出ていることが多く、日本人などアジア人は右側の上行結腸が飛び出ています。左側の大腸憩室は食物繊維の不足した食生活を送っているとできやすい。右側ははっきりした原因がわかっていません」

 日本の食生活は欧米化が進み、食物繊維の摂取が少なくなってきている。そのため、欧米人と同様に、左側にも大腸憩室ができている人が多い。1個だけということはほとんどなく、大腸の左右あちこちに数百個もできる人もいる。

 大腸憩室が怖いのは、大量出血のリスクがあるからだ。
「大腸の中で便などが憩室に刺激を与え、粘膜が傷つくと、憩室につながる血管は動脈なので、真っ赤な血が尋常じゃないほど出ます」

 便器にポタ、ポタ、ポタ……といったレベルの出血ではない。便器内がバーッと赤くなるほどの出血なのだ。
「この時、出血が大腸を刺激するので、腹がぐるぐる動くなどの不快感があります。出血は、しばらくすると止まりますが、何度も繰り返すうちに出血が止まらなくなり、救急車を呼んだという患者さんは結構います。患者によっては、〈また痔の出血だ〉としばらく様子を見る人がいますが、それが大量出血につながりかねない」

 大腸憩室の出血リスクが高い人は、高血圧や動脈硬化の人、血液をサラサラにする抗血小板薬などを服用している人などだ。「大腸憩室がある」というだけでは痛みや不快感などの自覚症状はないので問題ないが、出血をしたら、すぐに病院で検査を受けるべきだ。

■食物繊維の摂取で予防

 大腸憩室の従来の治療は、内視鏡で1センチほどのクリップを入れて、出血した憩室の入り口を挟む方法。ところが、これでは上行結腸など出血量が多い憩室に関しては、5人に1人はうまく止血をできない。日本人はもともと上行結腸の憩室が多いので、適切とは言いがたい。

「そこで私たちが目をつけたのは、出血した憩室の根元をゴムで巻く方法です。外に飛び出ている憩室を、内視鏡を使って大腸側からヒュッと吸い込み、その根元にバチンとゴムをつけます」

 もともとはアメリカで2003年に開発された技術。ところが、アメリカでは出血が少ない左側の憩室が圧倒的に多く、普及しなかった。それが日本では大いに役立ったのだ。

「この治療のメリットは、強力なバンドの締める力で、縛られた憩室が壊死(えし)して取れてなくなることです。クリップを使った方法では、憩室にフタをするだけなので、そこまでいきません」

 デメリットは、憩室を数個バンドで締めようと思ったら、その都度、大腸内視鏡を出し入れしなくてはならないことだ。

 ちなみに、大腸憩室は、食物繊維をたくさん摂取することで、ある程度予防できる。食生活の見直しが大前提にあることは間違いない。

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