患者負担が大幅減 手術を受けるなら「ERAS」病院

「手術」と聞くと、ほとんどの人が不安になるものだ。がんや心臓などの大きな手術になるとなおさらで、長期間入院するつらい闘病生活をイメージする人も多いだろう。しかし、病院の選び方で手術の不安や苦痛は激減する。

 欧米で実績がある「ERAS(イーラス)」と呼ばれる術後回復能力強化プログラムが注目されている。入院→手術→退院の間に行われる医療行為を科学的根拠に基づいて見直し、それまで慣例や経験則で行われていた無駄な医療行為や、患者に負担がかかっている処置を排除したものだ。

 必要最小限の医療行為を受けるだけで済むため、患者の負担が大幅に減り、病気によっては入院日数が短縮できるケースもある。

 ERASを導入している神奈川県立がんセンターで麻酔科医(非常勤)を務める神奈川県立保健福祉大の谷口英喜教授(栄養学科)に、詳しく解説してもらった。

「同じ手術を受けたとしても、ある病院では1週間で退院できるのに、ある病院では退院まで1カ月かかるケースがあります。科学的根拠がない無駄な医療行為を慣例で行っている病院の場合、必要のない絶食や投薬によって、しばらく寝たきりで安静にしていなければならず、患者の回復力も遅れてしまうのです」

■普通の生活に早く戻れる

 一方、ERASを導入している病院では、どこでも同じ水準の必要最小限の医療行為を受けるだけで済む。
「患者さんの負担は大幅に減ります。手術後、短い期間で食べたり動いたりできるので、入院中も通常に近い生活ができる。それだけ早く普通の生活に戻れます」

 たとえば、大腸がんの手術を受ける場合、従来通りの病院では〈入院前のカウンセリング〉から〈予後の調査〉まで15項目の医療行為が行われているのに、ERASを導入している病院では、不必要な〈絶飲食〉〈投薬〉〈医療処置〉が削られ、11項目で済むケースもある。それだけ、「食べられない、動けない、痛い」という患者の負担が減るわけだ。

「大腸がんだけでなく、食道がん、胃がん、婦人科疾患、泌尿器疾患、心臓疾病の手術でもERASが導入されています。ただ、病院全体で導入しているところはまだ数えるほどで、疾患ごとの病院が多い。現在、全国で200施設前後に導入されています」

 大々的にERAS導入を掲げている病院もまだ少ない。導入されている病院で手術を受けようと思ったら、「クリニカルパス」と呼ばれる病院が患者用に公表している手術予定表を確認すればいい。ほとんどの病院のホームページでチェックできる。

「自分が受けたい手術のクリニカルパスを見て、手術前後で〈いつまで食べられるのか、いつから食べられるのか〉〈いつまで動けるのか、いつから動けるのか〉の2点をチェックしてください。導入されていれば、下剤による苦痛も少なく、食事は手術の前日までOK、飲水は当日までOK、術後は翌日から食べることができます。導入されていない場合、手術日を含めて3日間は絶食です。また、全体的な入院期間の長さも短いケースが多い。大腸がんの手術の場合、ERASなら術後5日で退院できますが、10日以上かかる病院もあります」

 パソコンが苦手な人は、家族や知人に頼んでその病院のクリニカルパスをチェックしてもらえばいい。病院に問い合わせて、仮にその病気の手術を受けた場合、〈入院期間はどれぐらいが目安なのか〉〈手術後はいつから食べることができるのか〉〈いつから動き回れるのか〉を聞いてみる手もある。

 ネームバリューだけで病院を選ぶのはやめておいた方がいい。

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