片頭痛の放置が招く 「脳過敏症候群」危険度チェックリスト

 日本では840万人が「片頭痛持ち」だといわれている。適切な対処をせずに放置していると、深刻な状態になりかねない。

 片頭痛は〈脳の興奮〉によって起こる。脳が外的な刺激に敏感に反応し、脳の血管が広がって血管の周囲にある三叉(さんさ)神経が刺激され、激しい痛みを発症する。

 たかが頭痛ぐらい……などと甘く考えて鎮痛薬でごまかしたり、痛みを我慢してやり過ごす行為を続けていると、〈脳の興奮〉がどんどん蓄積され、さらに深刻な症状を招く。頭痛治療の第一人者で、東京女子医大脳神経外科客員教授の清水俊彦氏は言う。

「興奮状態を放置したままにしておくと、脳はちょっとした刺激でも興奮しやすくなり、ささいなことで頭の痛みを感じるようになります。年をとると、脳が興奮しても加齢による動脈硬化で血管が広がりづらくなるため、痛み自体は感じなくなってきます。しかし、脳の興奮状態は鎮まらないまま慢性化し、〈脳過敏症候群〉に移行する危険があります」

 脳過敏症候群は、10年に日本頭痛学会、11年に国際頭痛学会で清水氏らが提唱した新しい病状だ。脳過敏症候群になると脳の働きが混乱し、頭の中で雑音が鳴り響くような耳鳴り頭鳴(ずめい)、立っていられないようなめまい、頭重(ずおも)感、不眠といった深刻な症状が表れる。

 物忘れが激しくなったり、イライラして攻撃的になったり、奇行を繰り返す場合もある。認知症、うつ、パニック障害だと思われていた人が、実は脳過敏症候群だったというケースもあるという。

 片頭痛を抱えている人は、対処を誤ると脳過敏症候群に移行する可能性がある。そうなる前に、まずは片頭痛を放置せずに早い段階で適切な治療を行うことが大切だ。

「片頭痛には特効薬であるトリプタン製剤が効果的です。脳の血管の拡張や三叉神経から放出される炎症物質を抑え込み、脳の興奮も鎮めます。片頭痛が起こり始めたらなるべく早く使うことが大切で、痛みを我慢してはいけません。既往症によってはトリプタン製剤を使用できない患者さんもいますので、〈たかが頭痛で医者にかかるなんて〉とは考えずに診察を受けること。将来の脳過敏症候群の予防につながります」(清水氏)

 脳過敏症候群に移行しているかどうか心配な人は、以下の診断基準(案)をチェックすべし。

①過去に片頭痛などの慢性頭痛の既往がある
②2親等以内に片頭痛などの慢性頭痛を持つ者がいる
 いずれかに当てはまる人のうち、日常生活に支障を来す程度の下記の症状を3項目以上満たす人は、脳過敏症候群になっている可能性が高い。
①片側または両側性の頭鳴
②不眠
③不安の増強
④高次脳機能の一時的障害(物忘れなど)
⑤頭重感
⑥浮動感を伴うめまい

「脳過敏症候群まで進んでしまった人は、抗てんかん薬や抗うつ剤などを使って脳の興奮状態を鎮める治療を行います。しかし、数十年かけてこびりついた脳の興奮状態を元に戻すには数カ月から数年かけた長期にわたる根気強い治療が必要になります」(清水氏)

 将来、深刻な症状に悩みたくない人は、片頭痛を放置しないこと。
 我慢は美徳ではないのだ。

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