適切な睡眠時間は? 厚労省の新「睡眠指針」信じていいのか

 厚労省が11年ぶりに〈睡眠指針〉を改定する。年齢別に適切な睡眠時間として、「10代前半は8時間以上、25歳は7時間、45歳は6.5時間、65歳では6時間程度」といった数字が盛り込まれている。一歩前進したといわれているが、うのみにしてはいけない。

〈年を取ったらあんまり寝ちゃいけないそうだ〉
 70歳のTさんは、普段は夜の9時すぎに床に就き、翌朝5時に起床していた。だが、新しい睡眠指針を目にしてから、〈8時間だと寝すぎらしい〉と、眠い目をこすりながら夜更かしするようになった。その結果、日中に強烈な眠気が襲ってきて、ボーッとする時間が増えてしまった。

 新たな睡眠指針では、パッと見て分かりやすいように「時間」が細かく明示されているが、その数字にとらわれるのは大きな間違いだ。
「ここぞというときに力が出せる 睡眠の3鉄則」などの著者で、作業療法士の菅原洋平氏に聞いた。

「適切とされた睡眠時間に合わせようとして、眠れないのに無理に寝ようとするのは逆効果です。夜眠くなったのに、無理やり起きているのも体に悪影響を与えます。そもそも睡眠は、一律に何時間とればOKというものではありません。年齢だけでなく季節によっても必要な時間は変わるし、個人差もあるのです」

 目安にするのは単純な睡眠時間ではなく、「起床から4時間後に眠くなるかどうか」だ。
 人間には「睡眠―覚醒」の生体リズムが備わっていて、起床から4時間後に脳が最も活発になるようにプログラムされている。そのタイミングで眠気が出るのは、睡眠が不足しているということ。これさえチェックしていれば、今の睡眠時間が自分にとって適切かどうかを確認することができる。

 たとえば、夜10時に寝て朝6時に起きている人が午前10時に眠くなるなら、8時間寝ていても睡眠は足りていない。「量」は満たしていても「質」が悪いのだ。

「睡眠は眠り始めから最初の3時間の深さが重要です。睡眠が不足していると、多くの人は単純に『量』を稼ごうとして、生体リズムを崩してでも睡眠時間を確保しようとします。休日に寝だめしたり、3時間以上も昼寝をする人もいる。しかし、これは『睡眠―覚醒』のリズムを崩してしまうので逆効果です」

 睡眠が足りていないなら、起床時間は変えずに普段より少しだけ就寝時間を早める。1日5分早めるだけでも、1カ月で計2時間30分も多く眠れる計算になる。これを繰り返していけば、リズムを崩さずに慢性的な睡眠不足を解消することができる。

 逆に、6時間しか寝ていなくても起床から4時間後に眠くならない人は、いまの自分に必要な睡眠時間を満たしている。“適切な量”に合わせようとして無理に睡眠を増やさなくてもいい。

「ただし、マイクロスリープが出ていないかどうかのチェックが必要です。睡眠は脳をメンテナンスするために必要な時間で、シャットダウンする必要があると眠気が出ます。眠気があるのに寝ない状態を続けていると、そのうち眠気そのものを感じなくなってきて、起きている時も脳の使っていない部分をシャットダウンするようになります。これがマイクロスリープで、生産性を下げたり、事故につながる危険もあります」

 短時間しか寝ていないのに、起床から4時間後に眠くならない場合、マイクロスリープが出ている可能性がある。文章を読んでいて無意識に同じ部分を何度も読み返してしまう。パソコンで入力中に同じような変換ミスを繰り返す。赤なのは2つ先の信号なのに減速してしまう……。ちょっとしたエラーを繰り返す場合は、睡眠リズムを見直す必要がある。

 指針をもとに自分の生活に合わせて応用する術を身につけるべし。

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