胃が不調なのに検査に異常なし…疑うべき病気はコレだ!

 いつまでも胃の調子がよくない人は、機能性ディスペプシア(機能性胃腸症)を疑ったほうがいいかもしれない。かつては、神経性胃炎と呼ばれていた病気だ。慶応義塾大学病院消化器内科・鈴木秀和准教授に話を聞いた。

 機能性ディスペプシアと診断されるのは、(1)ある程度慢性的に胃の不調があり、(2)内視鏡などで胃を調べても潰瘍やがんなどの異常(器質的疾患)が見られない場合だ。

「代表的な症状は〈つらいと感じる食後の胃もたれ〉〈食べ始めるとすぐにお腹がいっぱいになり、それ以上食べられない〉〈みぞおちの痛み〉〈みぞおちの焼けるような感じ〉の4つ。ただし、人によって不調の表現が違うので実際の症状の訴えは多岐にわたります」

 原因ははっきりと分かっていない。胃はストレスや日常生活で生じる負荷の影響を受けやすいので、それらの外的要因に、体質や年齢的な変化などが加わって発症すると考えられている。4人に1人が機能性ディスペプシアという指摘もある。

 しかし、一般の人はもちろん、医師の間でも完全に認知されているとは言い難く、個々の患者に適切な診断や治療が行われているとはいえない状況だ。冒頭の(2)のように、機能性ディスペプシアは器質的疾患がないからこそ、そう診断されるのだが、「異常なし。治療の必要がない」とみなす医師もいれば、数種類の胃薬を同時に処方する医師もいる。

「“気のせい”は“機能性”と冗談で言うほど、理解を得られていないのがこの病気なのです」

 (1)と(2)に当てはまり、病院を受診したのに一向に症状が改善されないようなら、機能性ディスペプシアとして前向きに治療してくれる医師を探すべき。消化器内科医であっても、だれもが胃の機能性疾患に精通しているとは限らない。

■症状の変化を見ながら最適な薬を探っていく

 機能性ディスペプシアと診断されると、ヘリコバクター・ピロリ菌がいる場合は、まずピロリ菌の除菌治療が行われることが多い。
「専門家の間では、ピロリ菌がいる場合を機能性ディスペプシアとするか、ピロリ菌関連ディスペプシアとするかで意見が分かれています。しかし、どちらにしろ除菌後、14人に1人くらいは機能性ディスペプシアの症状が治まるので、まずは除菌から、となります」

 除菌したが、数カ月たっても症状が改善されない、あるいは最初からピロリ菌がいないという場合は、ディスペプシア症状に応じた薬を使う。
「胃の運動を促進する薬や胃酸分泌抑制薬などさまざまな胃薬がありますが、基本的には、症状に対して最も適切だと考えられる薬を1種類、1カ月ほど服用していただき、症状の変化を見ながら最適な薬を探っていきます」

 すでに複数種類の胃薬を飲んでいる人には、時に、一度薬をやめてもらうこともある。どの薬が効いているかが分からないからだ。六君子湯という漢方薬や、抗うつ薬などを用いることもある。

「機能性ディスペプシアの治療で重要なのは、医師と患者の信頼関係です。中には、正しく診断がついた、医師に自分の話をよく聞いてもらった、というだけでも症状が改善する方もいるのです。〈簡単に治る病気ではない。でも、治る病気。根気よく治療に取り組もう〉ということを、私は患者さんによく話します」

 薬とともに、胃の不調とうまく付き合っていくための生活習慣に対するアドバイスもする。

「すると、次第に患者さん自身が〈今回の出張はストレスがかかりそうだから、薬を飲んでおこう〉〈残業が続くと胃もたれがひどくなるから、生活リズムに気をつけよう〉などと考えるようになっていきます。そうなると、薬をやめられる日も近いわけです」

 日々の苦しみと手を切ろう。

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