一生腕が上がらないことも 甘く見ると怖い「五十肩」

 五十肩は、肩の痛みに加え、腕の動きが悪くなる疾患だ。「たかが五十肩」と甘く見ていると、腕が一生上がらなくなることも。「予約は4カ月待ち」という東京女子医科大学東医療センター整形外科・神戸克明准教授に五十肩の最新治療を聞いた。

 肩を触ると突起がある。「肩峰」という箇所で、50歳以上になるとほとんどの人の肩峰の裏側に骨のトゲができ、肩の筋肉と骨をつなぐ「腱板(けんばん)」に傷をつくる。

■ヒアルロン酸の役割

 それでも肩の動きを滑らかにする油のようなもの(ヒアルロン酸)が十分にあれば傷は治るが、加齢や体質、持病などで油が少ないと、傷は治らない。傷が大きくなって炎症が肩に広がり、肩関節周囲炎を起こす。

「炎症が慢性化すると、痛みで肩を動かしづらくなります。それが五十肩。さらに放置すると、肩の関節が癒着して拘縮肩と呼ばれる状態になります。全身麻酔で完全に痛みを取っても腕が肩の高さまで上がらない。痛くて肩を動かせないのではなく、構造的に動かせなくなってしまうのです」

“五十肩は自然に治る”と思いがちだが、拘縮肩まで進行すると、自然には治らない。痛みは消えても、治療を受けない限り、腕を肩以上の高さまで一生上げられない。生活の質が著しく低下するのは、想像に難くない。

 五十肩の段階なら、ヒアルロン酸の注射とリハビリの両方、あるいは注射だけで改善する。

「ヒアルロン酸の注射は2週間に1回、5回が目安ですが、軽症なら、1回でも痛みが消え、肩が動きやすくなります」

 リハビリは、(1)肘を曲げて手のひらを上に向け、大きく外に回す。(2)肘を曲げて手のひらを上に向け、肘は体につけたまま小さく外に回す。(3)体の横で親指を上にし、動く範囲で腕を斜め後方に上げる。(1)と(2)は10回、(3)は5回、1日3セット行う。
「注射で腕が動きやすくなっているので、従来はできない(1)~(3)の動きがスムーズに行えます」

 すでに拘縮肩まで進行している人や、注射とリハビリを半年間行っても効果が見られない人には、内視鏡手術が効果的だ。
「肩に部分麻酔をかけ、5ミリの穴を4カ所開けて、そこから4ミリの内視鏡を入れます。肩峰の裏側のトゲを取り、肩の関節の癒着をはがし、腱板の傷をきれいに治す根本治療なので、拘縮肩の人も腕が肩の高さ以上に上がるようになります」

 2泊3日の入院で、術後は3カ月ほどのリハビリが必要だ。仕事に復帰できるのは、デスクワークなら術後1週間が理想。健康保険が適用されないので、入院費含めて10万円前後かかる。
「これまで400例ほど手術をしていますが、術後の感染症などは一例も起こっていません」

■糖尿病の人は悪化しやすい

 神戸准教授は五十肩の患者を調べる中で、意外な事実を突き止めた。
「手術前には血液検査などを行います。97人のデータを調べたところ、男性の3割が糖尿病でした」

 さらにその後の研究で、「今は血糖値が基準値内で糖尿病でなくても、家系に糖尿病がいる人まで含めると5割近くが重症化すること」「心臓、肝臓、肺に異常がある人も重症化しやすいこと」が分かったという。

「糖尿病の人は免疫力が低下しているので腱板の傷が治りにくい。心臓、肝臓、肺の疾患も傷の治りにくさに関係しています。そのため、五十肩になりやすく、重症化しやすいのです」
 該当する人は早く手を打つべき。服を脱ぎ着するのにも苦労する生活になる前に。

関連記事