昨年保険適用 大動脈弁狭窄症の新治療法「TAVI」とは?

 大動脈弁狭窄(きようさく)症は、心臓の大動脈の出口にある弁の開きが悪くなり、血液の流れが妨げられる病気だ。年々増加しているこの病気の新しい治療法「経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI=タビ)」が、昨年10月に保険適用になった。日本人で唯一、TAVIの世界共通の指導医資格を持つ慶応義塾大学医学部循環器内科・心臓カテーテル室の林田健太郎医師に話を聞いた。

 TAVIが画期的なのは、「これまで打つ手がなく、死を待つしかなかった患者の治療ができるようになった」という点だ。
 大動脈弁狭窄症は、息切れや動悸(どうき)、疲れやすさから始まり、やがて胸痛や失神が生じ、激しい息苦しさの心不全を起こすようになる。

「最初は気付きにくく、胸痛や失神が出てきて初めて診断される患者さんが多い。こういった症状が出てきたら生存率は急激に下がり、2年以内に50%の人が亡くなるというデータがあります」

 死へ向かうのを食い止める従来の治療法が、大動脈弁置換術だ。心臓にメスを入れ、硬くなった大動脈弁を切り取り、代わりに人工の弁を縫い付ける。三十数年の歴史がある完成された治療法だが大きな問題点がある。
 それは、大動脈弁狭窄症は65歳以上で発症率が高くなり、80代の患者さんも非常に多いことだ。

「高齢で体力が低下している上に、ほかの疾患を併発している人が珍しくない。心臓にメスを入れ、手術中は心臓を止める大動脈弁置換術は体への負担が大きく、適応できない患者さんが少なくありませんでした」
 つまり、「打つ手がない」。息苦しさでほとんど動けず、心不全で入院を数週間おきに繰り返し、最後は息を引き取る――。

「私たち医師はなにもできなくて、ただみとるしかできず、無力感がありました」
 ところがTAVIの登場で、大動脈弁置換術が受けられない人でも、大動脈弁狭窄症から“生還”できるようになった。

 TAVIは、太ももの付け根に1センチ弱の小さな穴を開け、そこから鉛筆ほどの太さに折りたたまれた生体弁を装着したカテーテルを入れ、大動脈を通って心臓まで運ぶ。生体弁が大動脈弁の位置に到着したら、バルーン(風船)を膨らませ、生体弁を広げて留置し、カテーテルを抜き取る。

 太ももの血管が細い人は、肋骨の間を小さく切開し、そこから生体弁を装着したカテーテルを入れる。後は、太ももから入れる場合と同じだ。

「TAVIなら心臓にメスを入れることもなく、心臓も止めないため、高齢で体力が低下していたり、ほかの疾患を併発している患者さんでも受けられる。入院期間は平均1週間。早い人なら3日で退院できます。開きが悪くなった弁が新しい生体弁に変わるので、手術直後から息苦しさなど全ての症状が消えます」

 現在、TAVIは世界中で10万人以上に行われている。体への負担が少ない治療法とはいえ、脳卒中や血管破裂、大量出血などの合併症のリスクはあり、いち早くTAVIが行われているヨーロッパでは、術後30日間の死亡率は5%。ただし、TAVIを受けなければ、前述の通り2年で50%が死亡する。

「TAVIは開発されてから10年ほどと長期成績が確立されていないので、現段階では大動脈弁置換術が適応できない患者さんが対象です。当院では、内科、外科、麻酔科、エコー科、リハビリ科、看護師、臨床工学技士、放射線技師などからなるチーム体制で、患者さんにベストな治療法を選択しています」

 全国25カ所の病院で行われている(2014年4月時点)。

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