死へ向かうのを食い止める従来の治療法が、大動脈弁置換術だ。心臓にメスを入れ、硬くなった大動脈弁を切り取り、代わりに人工の弁を縫い付ける。三十数年の歴史がある完成された治療法だが大きな問題点がある。
それは、大動脈弁狭窄症は65歳以上で発症率が高くなり、80代の患者さんも非常に多いことだ。
「高齢で体力が低下している上に、ほかの疾患を併発している人が珍しくない。心臓にメスを入れ、手術中は心臓を止める大動脈弁置換術は体への負担が大きく、適応できない患者さんが少なくありませんでした」
つまり、「打つ手がない」。息苦しさでほとんど動けず、心不全で入院を数週間おきに繰り返し、最後は息を引き取る――。
「私たち医師はなにもできなくて、ただみとるしかできず、無力感がありました」
ところがTAVIの登場で、大動脈弁置換術が受けられない人でも、大動脈弁狭窄症から“生還”できるようになった。