狭心症や心筋梗塞を誘発 血圧を下げすぎると命が危ない

 年を取ると、血圧を気にする人が多い。血圧が高すぎると血管が破れ、脳内出血やくも膜下出血などの原因になるから、注意するのは大切だ。しかし、下げることばかりに必死になっていると逆に危ない。

 これまで、日本では高血圧の基準値が厳しかった。しかも、「最高180mmHg/最低100mmHg」(87年)→「140/90」(00年)→「130/85(健診レベル)」(04年)と、どんどん引き下げられ、高血圧と診断される人が増加。70歳以上の52.5%が血圧を下げるクスリを飲んでいるという調査もある(厚労省調べ)。

 今年、発表された「高血圧治療ガイドライン2014」では、病院で「140/90」、家庭なら「135/85」で、高齢者は「150/90まで考慮可能」という数値に緩められたが、それでも、〈血圧はとにかく下げた方がいい〉というイメージを抱いている人が多いに違いない。

■さまざまな要因で変動する

 しかし、血圧を下げすぎると、深刻な事態を引き起こしかねない。東邦大学医療センター佐倉病院循環器科の東丸貴信教授はこう言う。

「血圧はさまざまな要因で変動しやすいものです。朝は上がって、夜は下がりますし、暑いと下がり、寒いと上がります。深呼吸した程度でも変わるほどで、自分の正確な血圧を把握できている人は少ない。一般的に、病院で計測した血圧より、家庭血圧の方が低めですが、クスリの量は診察時の血圧によって決められることが多い。血圧が高いからと降圧剤を服用していたら、下がりすぎてしまい、命に関わる病気や事故を引き起こすケースもあります。とりわけ、血圧が不安定な高齢者は注意が必要です」

 高齢になると加齢による動脈硬化が進んで、血管が硬い状態になっている。心臓が血液を送り出す時にはそれだけ力が必要になるため、収縮期血圧=最高血圧は上がる。

 逆に心臓に血液を戻す時は、膨らんだ動脈が元に戻ろうとする力が弱いため、拡張期血圧=最低血圧は下がる。さらに、血管内に血液をためておく容量も減っているので血圧を維持できない。

 高齢者の血圧は上が高くても下は低いから、下手に降圧剤を飲むと下がりすぎてしまうのだ。

■大ケガするリスクが30~40%増

「血圧を下げすぎると、冠動脈血流が低下して、狭心症や心筋梗塞を誘発するリスクがあります。腎臓の血流低下によって腎機能が悪化したり、長期的には、かえって心臓血管病のリスクが増加するという報告もあります」(都内の循環器専門医)

 起立性低血圧によるめまいや立ちくらみ、ふらつきによる転倒も、高齢者には危険だ。

 米国の研究では、降圧薬を服用している高齢者は、服用しない高齢者に比べ、転倒後に股関節や頭部を骨折するなど、大きなケガをする可能性が30~40%高いという。
 高血圧で病気になるリスクより、血圧を下げたことによって起こる病気や事故のリスクの方が高くなってしまったら、本末転倒だ。

 血圧を下げすぎないようにするには、定期的に家庭血圧を測って、変動しやすい自分の血圧を把握することが基本になる。朝と夜、1日2回計測するのが理想的だ。

「計測した最高血圧が常時120以下の場合、どこかで一時的に100以下まで下がっている可能性があります。クスリを減らしたり、飲まない方がいいでしょう。クスリを飲んで、めまい、立ちくらみ、動悸(どうき)、胸痛がある場合も、血圧を下げすぎているサインだと考えてください」(東丸教授)

 血圧はただ下げればいいというものではないのだ。

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