「不眠症」の正しい知識と「睡眠薬」の上手な使い方

 不眠症で睡眠薬を服用している人は、20歳以上で20人に1人、60代以上では7人に1人といわれている。正しく睡眠薬を使うには何を知っておくべきか? 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神生理研究部の三島和夫部長に聞いた。

【不眠と不眠症は違う】

 だれにでも、何らかの理由で眠れなくなること(不眠)はある。しかし、通常は数日から2週間で自然に眠れるようになる。ところが、不眠が1カ月以上続くことがある。そうなれば、治療が必要な不眠症だ。

「ただし、〈夜眠れない=不眠症〉ではありません。夜眠れないことで抑うつ状態、倦怠(けんたい)感、仕事のパフォーマンスの低下など、日中の心身の機能障害やQOL(生活の質)の低下が生じた場合が不眠症です」

 つまり、「不眠症が治った」ということは「ぐっすり朝まで眠れること」ではなく、「不眠による日中の心身の機能障害・QOLの低下がなくなった」ということだ。

【不眠症は自然に治らない】

 不眠症になると、自律神経の働きやホルモンの分泌も乱れ、体の機能が「眠れない状態」になる。

「睡眠薬を用いた早期治療が肝心です。我慢を続けると、難治性になりやすい。ちなみにサプリメントやアロマ、ちまたで言われる快眠法などは、どれも不眠症の治療効果が実証されていません」

【不眠症は治る】

 自然には治らないが、適切な治療で治る。

「睡眠薬の調整も含めてだいたい3カ月くらいで治療効果は確認できます。減薬が可能な方もいます。もちろん、難治性の方もいますが、症状の軽減は可能です」

【治らない場合は別の病気の可能性あり】

 不眠症には誤診されているケースも珍しくない。たとえば、睡眠時無呼吸症候群やむずむず脚症候群、うつ病などだ。

「睡眠薬は薬の量を増やしても効果が増すわけではありません。また、長く使えばいいというわけでもない。薬を2錠使ってもよくならない、3カ月睡眠薬を服用しても快方に向かわないという時は、不眠症治療の専門医を受診すべきです」

【眠れるようになったら薬を減らす】

 睡眠薬を飲み始めたら手放せなくなる――。それは全くの誤解だ。

「睡眠薬によって日中の心身の機能障害やQOLの低下が改善され、1~2カ月持続したら、自律神経の働きやホルモンの分泌も正常になってきます。〈眠れないのでは〉という恐怖心もなくなってくる。そうなれば、減薬のタイミングです」

 スパッとやめるのではなく、段階的に減らしていく。減薬当初は不眠気味になることもあるが、不眠症が治っていれば1週間程度ですぐに眠れるようになる。

【最初はベンゾジアゼピン系以外の睡眠薬で】

 日本で40年以上にわたり長く使われてきた睡眠薬がベンゾジアゼピン系だ。しかし最近、非ベンゾジアゼピン系やメラトニン受容体の薬が登場。さらに新しい作用機序の睡眠薬も登場予定だ。

「これらはベンゾジアゼピン系に比べて副作用が軽く、減薬もスムーズにいきやすい。最初に使うのに適しています」

■自ら医師に進言することも必要

 ここに挙げた項目は、しっかり頭に入れ、時には自ら医師に進言すべき。

「睡眠薬の正しい使い方は医師の間でも浸透していません。早期に適切に使い、治療をすれば、不眠症は治ります。減薬も可能です。しかし現実は、効果をチェックされないままに漫然と処方され続け、結果的にやめづらくなっている患者さんがいます。別の病気で不眠が出ているのに、ずっと不眠症と誤診されている患者さんもいます」

 むやみに睡眠薬を恐れず、上手に使うべきだ。

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