空前の「立ち食いブーム」 懐だけでなく健康にも良かった

 ちまたでは「立ち食いブーム」が到来している。そばやうどんだけでなく、ステーキ、イタリアン、フレンチ、ついには立ち食い割烹までもが登場。あちこちに“立ち食いレストラン”がオープンし、店の前には長い行列ができている。

 時間がない時にササッと立ち食いで済ませることはあっても、日常生活の中で立ったまま飲み食いする機会は少なかった。それが、最近の立ち食い、立ち飲みブームですっかり当たり前になりつつある。

■胆汁の流れに影響を与える

 果たして、立ち食いは胃腸や健康にどんな影響を与えるのか。日本消化器病学会専門医の江田証氏(江田クリニック院長)はこう解説する。

「立った姿勢での飲食は、座った姿勢に比べて消化や吸収が良くなると考えられます。胆汁の流れがスムーズになるからです。胆汁は肝臓から分泌され、十二指腸で膵液(すいえき)と一緒になることで脂肪の消化吸収の働きを活発にします。座った姿勢だと胆汁の通り道である胆管の蠕動(ぜんどう)運動が鈍くなり、胆汁の流れが悪くなって鬱滞(うつたい)しやすくなります。その結果、消化吸収が悪くなってしまうのです」

 胆汁の流れが悪くなると、胆石もできやすくなる。胆石は、長時間座っていること自体がリスクになり、どれだけ運動しても改善されない。それだけ座った姿勢は、胆汁の流れに悪影響を与えるのだ。

 他にも、海外には「立ち食いは健康にいい」という報告がある。医療関係者が世界各地のさまざまな民族の食事姿勢を研究したところ、最も健康に良かったのが「立ち食い」で、以下、「椅子に座った姿勢」「しゃがんだ姿勢」だったという。しゃがんだ姿勢は大腿(だいたい)部と腹部が圧迫されて血の流れが悪くなり、心臓や胃への血液供給量が少なくなる。逆に立った姿勢なら、臓器への血液供給量がキープされるとしている。

「胃の血流量は、胃粘液の量に直結します。正常な胃粘膜は粘液でびっしりとコーティングされていて、胃壁がしっかり守られています。しかし、粘液が減るとバリアーが減ってしまうので、アルコールなどの攻撃因子によってダメージを受け、胃が荒れやすくなります」(江田院長)

 糖尿病の人は食後、低血糖でふらついて転倒の危険もあるから注意が必要だが、立ち食いにはメリットがたくさんあるのだ。

■「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」「俺の割烹」が大人気

 さらに、メタボ解消にも効果があると考えられる。立ち食いの人気店では、食事をするまで長い行列ができるので、単純に立っている時間が長い。人間は、ただ立っているだけでも座っている時より20%以上多くエネルギーを使う。座っている時間が長いとエネルギーが消費されず、内臓脂肪の増加につながってしまう。

 内臓脂肪が増えると、脂肪細胞の周囲が炎症を起こし、サイトカインと呼ばれる生理活性物質が放出される。

「サイトカインは細菌やウイルスを攻撃しますが、同時に自分の体の細胞も傷つけます。血管や血糖調節の働きを悪くして、動脈硬化や糖尿病の原因になる。また、全身の血管を巡って免疫の働きを狂わせるため、慢性じんましん、慢性頭痛、悪性リンパ腫といった病気も引き起こします」(江田院長)

 立って飲み食いすると、食べ過ぎ、飲み過ぎを防げるなんて声もある。自宅でも、立ち食いしてみる?

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