“新基準値”で大混乱…人間ドック、健康診断の賢い使い方

新基準に翻弄されるな/(C)日刊ゲンダイ
新基準に翻弄されるな/(C)日刊ゲンダイ

 日本人間ドック学会が4月に発表した「新基準値」をめぐって大混乱が続いている。いままで病気だと判定されていた人が実は健康だったとなれば、混乱するのも無理はない。コロコロ変わる基準に翻弄されることなく、人間ドックや健康診断をどう活用すればいいのか。

「新しい基準範囲」は受診者約150万人から「健康な人」を1万人ほど選び、27項目の検査値を対象に、性別、年齢グループ別の基準範囲を算定。その結果、いくつかの検査項目で従来の基準よりも上限値が高くなった。

 中でも“患者”が多い血圧は、従来の「130未満/85未満」とされていた基準範囲が、「148未満/95未満」に緩和された。これまでは高血圧と診断されていたのに、「問題なし」とされる人が続出する事態になったのだ。

 しかし、新基準値のベースになっているのはあくまでも「健康な人の検査値」で、他の病気を患っている人や、高血糖や高コレステロールなど別のリスク因子を抱えている人は含まれていない。そもそも、新基準値の数値に信頼できる科学的根拠があるかどうかを疑問視する声もある。

 それなのに、単純に血圧の新基準値だけをみて、〈自分は問題ない〉と勘違いしている高血圧の患者が続出している。

 来院の際に新基準値が掲載された新聞や雑誌の切り抜きを持参して、〈もう薬は必要ない〉と降圧剤を飲むのをやめてしまったり、それっきり通院しなくなるケースが後を絶たないという。

 東邦大学医療センター佐倉病院循環器科の東丸貴信教授はこう言う。
「それまで降圧剤を飲んで血圧コントロールをしていた患者さんが急に薬をやめてしまうと、リバウンドで血圧が一気に跳ね上がる危険があります。また、血圧はちょっとしたことで変動するため、平均130台に抑えられていた人が薬をやめてしまった場合、瞬間的に180くらいまで上がる可能性もあります」

 新基準値をうのみにして、自分は健康だと勝手に判断するのは危ないのだ。

 世界的に血圧の基準値は「140/90」だという。この数値は数多くの研究や検証を重ねて算出されたもので、日本高血圧学会の基準も同じだ。これを超えると脳卒中や心筋梗塞などの心血管イベントのリスクが上がるため、血圧コントロールが必要になる。

■総合リスクに考慮するべし

「高齢者の場合、日本では75歳以上の後期高齢者が『150/90』に緩和され、欧州や米国では60歳前後で同じ基準値が該当します。ただ、欧州では血圧以外のリスク因子が詳細に評価されます。悪玉のLDLコレステロール値や空腹時血糖値など、かつてのメタボ健診の厳しい基準を超えた項目がすべてリスク因子として換算され、高リスクの患者には早い段階で生活習慣改善による血圧、血糖、脂質のコントロールを促します。日本の人間ドック学会が発表した新基準のようにすべての数値を緩めてしまうと、高リスク患者が見逃されてしまう危険があるのです」(東丸氏)

 ひとつの検査項目の数値だけでアウトだセーフだと判断するのではなく、総合リスクを考慮する必要があるのだ。
「その時の数値が基準範囲に収まっていたとしても、年々、数値が上限に向かって右肩上がりに推移していたら、食生活を改めたり、日常的に運動をしたり、生活習慣を改善すべきです。人間ドックや健康診断で計測した数値は〈点〉ではなく〈線〉で判断するべきものなのです」(江田クリニック院長の江田証氏)

 せっかく検査を受けているのだから、有効活用したいものだ。

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