うつ病患者の6割に効果 最新「磁気刺激治療」体験レポート

副作用はほとんどなし/(C)日刊ゲンダイ
副作用はほとんどなし/(C)日刊ゲンダイ

 人口の約3%、日本には300万~400万人の「うつ病」患者がいるとされる。優れた薬は開発されているものの、効果には個人差や相性があり、副作用に苦しむ人も多い。そんな中、副作用がほとんどない画期的な治療法として注目を集めるのが、「TMS(磁気刺激治療)」だ。一体どんなモノなのか? 記者が体験した。

■根本的な治癒が期待できるうつ治療法

「TMSは、アメリカ発祥の最新うつ治療法です。活動が低下してうつ症状を引き起こしている脳の特定部分を磁気で刺激し、活性化するのが狙いです。これまでアメリカで5年間に1万3000人が受け、そのうち6割近くに効果が認められました。日本でも臨床研究が進んでおり、副作用のほとんどない画期的なうつ病治療として注目を集めています」

 こう言うのは、「新宿メンタルクリニック アイランドタワー」の渡邊真也医師。同クリニックは、昨年6月からこのTMSを導入し、延べ600人以上を治療。1年間で86%の人の症状が軽くなり、61%の人からうつ症状が消えたという。抗うつ薬を何年、何十年も飲み続けている人がいる実情を考えれば驚くべきスピードだ。

「実際、何年も薬物治療を続けても効果がなく、副作用に苦しんでいた人が、最後の望みで来院するケースが多いですね。良くなった方は“もっと早くこの治療法に出合いたかった”とおっしゃいます。さらに、この治療法が素晴らしいのは、ダメージを受けた脳を元の状態に戻す効果があるということ。つまり、根本的な治癒が期待できる、唯一のうつ治療なのです」

 治療の流れはこうだ。

 まずは臨床心理士によるカウンセリング。その後、医師の問診を経て、TMS治療機が置いてある個室に入る(実際は問診の翌日から)。歯の治療に使うような電動リクライニング椅子に横たわり、頭を固定される。

 次に、治療部位である「背外側前頭前野(はいがいそくぜんとうぜんや)」の位置を特定。背外側前頭前野は“大脳皮質の運動野の中でも親指をつかさどる部位”から5.5センチ前方に向かった所にあるので、まずは親指をつかさどる部位を探す(磁気が当たると親指がピクッと動く)。

 磁気を当てるたびに小指や薬指がピクッと動く。おしい! 親指はどこ? 意外とアナログなのが面白い。ただし、ミリ単位で器具を移動させながら探していくので、30分以上時間がかかった。この作業は最初だけだそうだが、動けないし不安だし、精神的にかなり疲れた。

■保険適用外で治療費は約180万円…

 場所が決まったらいよいよ治療開始。磁気を発するコイルが振動するために起こるダダダダ! という機関銃のような音と、キツツキに小突かれているような痛みが4秒間、側頭部を襲う。これが30秒に1回、40分間続く。

 爆音は耳栓をしているので平気だし、痛みはすぐに慣れて“イタ気持ちよく”なるが、40分間じ~っとしていなければならないのがとにかく苦痛。これを基本的に週3~5回、6~10週間かけ、計30回行う。

 保険が利かないため1回6万円、30回で180万円と、金銭的負担は大きい。臨床試験やモニターに参加することである程度安くなるそうだが、まだまだ限られた人のための治療法という印象だ。

 ただし、体験したその日は何となく頭がスッキリし、前向きな気分でいられたことは(思い込みかもしれないが)付け加えておく。

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