冬に多いイメージがあるが、脳梗塞の発症数は夏も多い。かつて、厚生労働省の研究班が全国156の病院を対象に「脳梗塞発症者数」を調べたところ、6~8月が最も多かった。汗をかき体内の水分が減少、血栓ができやすくなるからといわれるが、高齢者、糖尿病、高血圧の人などは心臓の働きのチェックが大事だという。なぜか。東邦大医療センター佐倉病院循環器科の東丸貴信教授に聞いた。
「脳梗塞には脳の細い血管が詰まって起こるラクナ梗塞(小梗塞)、太い血管が詰まるアテローム血栓性脳梗塞といった脳の動脈に血栓ができるタイプ、さらに心臓にできた血栓が脳の太い血管を詰まらせるタイプの心原性脳塞栓症があります。このうち、一番怖いのが心原性脳塞栓症で、別名ノックアウト型脳梗塞とも呼ばれています」
実際、脳梗塞の3割を占める心原性脳塞栓症は、10%近くが突然死し、半分が寝たきりになるといわれる。まさに死を招く脳梗塞なのだ。
「ノックアウト型脳梗塞はもともと冬に多いといわれ、気温が高く汗を大量にかく夏は、血液から水分が抜けて固まりやすくなり、脳の動脈に血栓ができるタイプの脳梗塞が多いといわれてきました。しかし、最近の猛暑と気温の急激な変化が、夏でもノックアウト型脳梗塞のリスクを高めている可能性があります。欧州の研究でも、猛暑による心房細動の増加が証明されているのです」
■夜間の脱水症状も影響する
では、この恐ろしい脳梗塞は、どんなタイプの人に起きやすいのだろうか?
「突然、動悸(どうき)や息切れがしたり、意識がフッと遠のいたりする人は要注意です。一般的な不整脈なら問題ありませんが、心房が細かく震えることによって起こる不整脈は心房細動といい、非常に危険です。ノックアウト型脳梗塞の3分の2が心房細動が原因だからです。心臓の中で血液がよどみ、血の塊ができて、それが脳に飛び、脳細胞に大きな損傷を与えるのです」
それでも、まれにある心房細動ならまだいいが、常に起きている持続性心房細動だと、死のリスクはいよいよ高まることになる。
「単なる心房細動だけならそれほど心配ないですが、これに高齢、糖尿病、高血圧、心不全や心臓血管病が加わると、心原性脳塞栓症のリスクが非常に高くなることが欧米の研究により分かっています」
では、ノックアウト型脳梗塞を防ぐにはどうすればいいのか?
「心房細動が生じる不整脈をキャッチすることが最も重要です。それには、心電図を取ったり脈を診ることです。発作性心房細動は24時間モニターするホルター心電図でも見つけにくいことがありますが、持続性は一般的な心電図で、発作性は動悸時の脈拍を診ることで簡単にわかります」
なお、心原性脳塞栓症は就寝時や早朝に多いが、これは夜間の脱水も影響する。
「夏は十分水分を取り、お酒や不眠、喫煙や暑さによるストレスを避けるべきです。当然のことですが、水分はビールなどのアルコールでなく、水やお茶、スポーツドリンクなどで取るよう心がけましょう」