白内障手術で重要…黒目の“ポンプ細胞”の数は足りているか

コンタクトで減少の恐れも/(C)日刊ゲンダイ
コンタクトで減少の恐れも/(C)日刊ゲンダイ

“50歳代になったら白内障手術をして、メガネなしの生活をする”

 日本では年間120万件以上の白内障手術が行われているため、それを当たり前のように考えている人が多い。

 しかし、いざ、病院に相談すると「あなたの目の状態では手術は難しい」と言われるケースが少なくない。

 その理由はさまざまだが、原因のひとつに角膜内皮細胞数の減少がある。白内障手術の名手で北里大学医学部眼科教室の清水公也主任教授が言う。

「うちには、他の医療機関が敬遠する、難度の高い白内障手術を必要とする人が多数訪れます。なかでも、よく見かけるのが角膜内皮細胞が減少したため、手術が困難だとされたタイプです」

 目の中央部分には光を透過する黒目(=角膜)がある。そこには血管がないため、涙から酸素を、目の中を循環する液体(=房水)から栄養を受け取っている。

 そもそも角膜は5つの層からできている透明の膜で、角膜内皮細胞はその一番内側にある。角膜は水分が染み込むと濁る。染み込んできた水を常にくみ出して、角膜の透明性を保つ、ポンプのような働きをするのが角膜内皮細胞だ。

 問題は、この細胞は一度死ぬと二度と再生せず、どんどん数が減っていくことだ。

「1平方ミリ内に2500~3000個が普通ですが、一定の数(800個程度)以下になると角膜を透明に保つことができずに、白く濁ってくる。そうなると、亡くなった人の健康な角膜を使う角膜移植を選択するほかなくなります。また、角膜内皮細胞の数が少なすぎると、手術のダメージでさらに数が減るため、“白内障手術は難しい”ということになるのです」(清水主任教授)

 加齢による角膜内皮細胞の減少は年間0・5%程度。問題はそれ以外の原因だ。

「ひとつはコンタクトレンズの長期使用です。最近のコンタクトの酸素透過性は以前に比べて優れているといわれています。しかし、角膜表面が酸素不足になることは免れません。そのため、長期間使用で、一番内側の角膜内皮細胞が大きく損なわれる恐れがあるのです」(清水主任教授)

 また、緑内障のレーザー手術に代表される目の手術もまた、角膜内皮細胞減少の原因となる。

「高い眼圧により視神経が圧迫され、視野が欠けるなどの視神経障害を起こす病気が緑内障です。最悪、失明に至るこの病気は、①房水の排出口である線維柱帯の目詰まり、②黒目の周りの色のついた部分(虹彩)と角膜との間が狭くなって房水の流れが悪くなる、などで眼圧が上昇する、と考えられています。そのため、線維柱帯や虹彩にレーザー照射する手術が行われていますが、それが角膜内皮細胞の減少に拍車をかけるのです」(都内の眼科専門医)

 さらには、ブドウ膜炎など目の中に炎症が起きる病気も角膜内皮細胞にダメージを与える。

「これは私の印象でしかありませんが、アレルギーなどで目を絶えずこすっている人も角膜内皮細胞がダメージを受けやすい感じがします」(清水主任教授)

 角膜内皮細胞の数はスペキュラマイクロスコープという機械で検査できる。本来は白内障やレーシックなどの予備検査や術後検査で使われるものだが、気になる人は測っておくといいかもしれない。

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