突発性難聴の8割が完治 画期的な「音楽聴くだけ」新療法

写真はイメージ/(C)日刊ゲンダイ
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 これまで、突発性難聴を発症すると、「音楽など聞かずとにかく安静に」と言われてきた。しかし、専門家の間では「うるさくない程度の音なら聞いた方がいい」という見識が新たに確立されつつある。

 朝起きたら、片方の耳が聞こえなくなっていた。突然、テレビやラジオの音が聞こえなくなった――。
 急激に聴力が低下する突発性難聴は、前触れなく発症し、原因不明のため、有効な治療法が確立していない。
 しかし最近、新リハビリ法が聴力を取り戻せるとして注目を集めている。自然科学研究機構生理学研究所・岡本秀彦准教授が開発した「病側耳集中音響療法」だ。

 日本の突発性難聴治療の主流は、ステロイド療法だ。しかし、その有効性ははっきりと証明されていなかった。

「ステロイド療法は有効ではないという海外の研究結果もあります。ステロイド療法は血糖値や血圧上昇といった副作用が出ることがあり、ごくまれに死亡するケースもあります。そのリスクを冒してまで有効性が疑問視されている治療を行うのではなく、別の方法がないかと考えたのが、病側耳集中音響療法の開発に至ったきっかけです」

 岡本准教授は、脳梗塞の片側マヒの患者に行われるリハビリ法に目をつけた。それは、正常に動く手足をギプスで固定し、マヒで動かない手足を積極的に動かす方法だ。

「すると、脳の神経ネットワークが再構築して、手足の機能が徐々に回復するのです。脳は使わなければ衰え、使えば活性化する。これは、感覚機能にも応用できると考えました」

 正常に聞こえる耳を耳栓でふさぎ、聞こえない耳に音楽を聞かせる。右耳から入ってきた音は、左脳で主に感知する(左耳なら右脳)。ところが、突発性難聴で右耳の聴力が低下すると、左脳は反応しなくなる。そして、左耳から入ってきた音に、右脳とともに左脳も反応するようになる。

「右耳の聴力が戻りかけても、左脳が反応しなくなります。それを防ぐために、正常に聞こえる耳に耳栓をします」

■クラシック音楽を毎日6時間

 突発性難聴を発症して5日以内の中程度の患者に10日間入院してもらい、31人が従来のステロイド療法、22人がステロイド療法と病側耳集中音響療法を受けた。
 病側耳集中音響療法の患者は入院中ずっと耳栓をし、聴力が落ちた側の耳でクラシック音楽を毎日6時間ヘッドホンで聞いた。クラシック音楽にしたのは、さまざまな周波数の音が入っていて、万人が嫌わずに聞けるからだ。

「脳の反応を調べると、入院時は音に対する脳の反応に異常が見られたが、リハビリ後は、聴力が正常な場合と同様の脳の反応が見られました。難聴の耳に対応する脳の部位が再活性化したことが考えられます」

 3カ月後の聴力検査の結果は、病側耳集中音響療法も受けた患者の86%が聴力が完全回復。14%が少し回復した。一方、ステロイド療法だけの患者は、完全回復が58%、少しの回復が19%だった。

「完全に回復したというのは、一般的に『治った』と考えていい。3カ月以上経っても聴力は落ちていません」

 一刻も早い普及が望まれる。

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