コツはいるが手術より確実 「多汗症」に効くボトックス治療

写真はイメージ/(C)日刊ゲンダイ
写真はイメージ/(C)日刊ゲンダイ

 最高気温が35度を超える猛暑日が続き、連日汗だくの人は多いだろう。暑い季節に汗を大量にかくのは自然の摂理だが、治療を考慮に入れた方がいい「多汗症」の場合もある。

 多汗症には、病気や薬剤使用に関連して発生する「続発性」と、それらと無関連に発生する「原発性」があり、原発性には「全身性」と、脇の下、手のひら、頭といった「局所性」がある。厚労省によれば、脇の下の原発性局所多汗症(=腋窩多汗症。以下、多汗症)の患者数は推定720万人。しかし、治療している人はその5~10%と少ない。

 多汗症の治療で有名なNTT東日本関東病院ペインクリニック科・安部洋一郎部長が言う。

「多汗症は、ご本人が日常生活でパフォーマンスを出せない、質が落ちると感じれば治療が検討されます。ただし、通常レベルの汗なのに過剰に気にされている方もいます。ですから、診断はかなり慎重に行います」

 多汗症と診断されたら、まずは塩化アルミニウムの塗り薬や内服薬を試すことが多い。十分な効果が得られなければ、A型ボツリヌス毒素製剤を脇の下10~15カ所に注射するボトックス治療だ。2012年から健康保険適用になった。

「A型ボツリヌス毒素製剤は汗腺であるエクリン腺に作用し、過剰な汗の放出を止めます。注射後4~5日目くらいから汗が出なくなり、効果は4カ月ほど続きます。残念ながら根本的な治療ではありませんが、言い換えれば、ボトックス治療で汗腺が“退化”することもない。夏の汗が多くなる時期だけボトックス治療を取り入れるなど、上手に多汗症と付き合っている方もいます」

■皮膚から2ミリのところに45度の角度で

 安部部長の経験上、ボトックス治療の効果はほぼ100%。しかし、「ボトックス治療を受けたが、あまり効果が見られなかった」という患者も時々来院するという。

「ボトックス治療には、コツがいります。皮膚から2ミリのところに45度で注射を打つことで、薬の効果を十分に発揮できる。しかし、ボトックス治療を繰り返していると、皮膚が硬くなって、適切な場所にうまく注射できないことがあります」

 ボトックス治療が駄目だった――とがっくり肩を落とす前に、治療が正しく行われていたかを考えるのもひとつの方法だ。ちなみに、かつては汗腺を薄く切り取る手術もあったが、ボトックス治療の方が確実で患者の負担が少ないので、手術を行う医療機関は減少傾向にあるという。

「現在の日本はまさに亜熱帯。これだけ高温高湿度の日が続けば、むしろ汗をかかない方がおかしい。汗にそれほどこだわらなくてもいいのではないかというのが正直な気持ちですが、それでも多汗症で悩んでいるなら、多汗症治療をうたう医療機関を受診されてはどうでしょうか」

■全身に大量の汗なら他の病気の可能性も

 手のひら、足の裏、顔、頭などの原発性局所多汗症の重症例には、交感神経を遮断して汗を止める胸部交感神経ブロックや胸腔鏡下交感神経遮断術がある。この治療は、「止めたい箇所の汗」は止まる。しかし、人間は汗を一度にかく量は決まっていて、手のひらや足の裏などに汗をかかない代わりに、別のところ(下半身など)から汗が出る代償性発汗の問題がある。

「代償性発汗のところに塩化アルミニウムを用いるなどして様子を見ます」(安部部長)

 また、大量の汗を「全身に」かく場合、甲状腺などの代謝性疾患や更年期障害など他の病気の可能性がある。この場合はすぐに病院を受診すべきだ。

関連記事