怒鳴ったらダメ 認知症の親との距離感、つき合い方

写真はイメージ/(C)日刊ゲンダイ
写真はイメージ/(C)日刊ゲンダイ

 親や配偶者が認知症を発症した時、困った行動の連続に、思わず怒鳴りつけてしまうことがある。どう対応すればいいのか? 「認知症と共に輝く日々をめざして」(飛鳥新社)を出版した順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学の新井平伊教授は、次のポイントを挙げる。

■同じものばかり、 いくつも買ってくる

「食品なら冷蔵庫に入っているものを書き出しておく。財布に<〇〇は家にあります>などと書いたメモを入れておく。財布の中の金額を管理する。とにかく叱らない」

■気力がなく、テレビばかり見ている

「認知症では意欲、やる気が低下しますが、これが続くと正常な脳機能も衰えてしまう。家にいると、どうしてもテレビの前にいる時間が長くなるので、デイサービスやヘルパーを利用する。日中に散歩などで活動量を増やし、適度に体を疲れさせるといいでしょう」

■食事をしたのに、まだ食べていないと言い張る

「もうすぐ食べられるという安心感を与えることが一番。どうしても我慢ができない場合は、カロリーの低いおやつを少しずつ出したり、3回の食事を数回に分ける、寂しさや欲求不満を食べることで解消しようとしている場合もあるので、様子を見るのも大事です」

■夕方になると「家に帰る」と身支度を始める

「少し時間が経つと落ち着くことも多いので、お茶や夕食に誘うなどして、本人がここにいようと思えるように気を紛らわせてください」

■お金を盗まれたと、身近な人を疑う

「<私が盗むわけがない>と責めず、一緒に捜す。気持ちが落ち着き、興味がほかへ移りやすくなります。食事などを挟むと、お金のことを忘れてしまう場合もあります」

■入浴を嫌がる

「入浴は夜と時間を決めず、日中に誘う。同性の家族や孫となら入るという場合もありますし、風呂上がりのビールやジュースを楽しみにお風呂に入るようになった人も。無理強いはせず、入浴の気持ち良さを伝えてください」

■失禁してしまう

「規則正しい生活で排尿や排便のリズムを予測し、タイミングを見てトイレに誘うと、失敗が減ります。トイレの場所が分からないようなら、ドアを開けてトイレだと分かるようにする。着脱のしやすい下着にする」

■幸せな認知症介護

 新井平伊教授の外来には、認知症の患者さんの診察に臨床心理士も同席する。臨床心理士の戸田愛子氏に、認知症の患者さんと家族が上手に寄り添いながら生きている印象的なエピソードを聞いた――。

 認知症の中期の段階で、近所の植木を蹴飛ばしたり荒らしたりする患者さんがいらっしゃいました。
 当時子供たちは20歳前後。奥さんは反抗期だった子供たちに「お父さんは悪くない」と繰り返し諭し、仕事と介護と子育てで大変な苦労をされていたにもかかわらず、認知症の家族会で知り合ったご家族を自宅に招いて慰めるなどしていました。

 重度に進行してからは、暴れるなどの行為は治まりました。奥さんはショートステイやデイサービス、リハビリなどを活用しながら在宅介護を続け、一方で仕事を辞め、結婚前の趣味を生かした活動をされています。独立し結婚した子供たちは、孫を連れて頻繁に実家を訪れ、介護を手伝っています。

 認知症の患者さんの介護は、初期や中期など段階において問題が変わります。ひとりで抱え込まずに、社会や地域支援を活用することによって、ポジティブな連鎖が生まれると思っています。

関連記事