目覚めると体が動かない…その金縛りは「病気」か「夢」か

金縛りは科学的に解明されている/(C)日刊ゲンダイ
金縛りは科学的に解明されている/(C)日刊ゲンダイ

 ふと目が覚めると、体をまったく動かせない。体の上に人が乗っている、部屋の中に誰かが侵入してくる…。怖~い「金縛り」や「幻覚」を経験したことがある人は多いだろう。そんな恐怖体験も、そのメカニズムは科学的に解明されているという。東京都医学総合研究所の精神行動医学研究分野・睡眠研究プロジェクトのリーダーを務める本多真氏に詳しく聞いた。

 睡眠には「ノンレム睡眠」と「レム睡眠」がある。ノンレム睡眠は、脳が休息している状態。ここで夢が報告されることもあるが景色はモノクロで、考え事をしているといった場合が多い。一方、レム睡眠は体が休息している状態で、脳は活発に働いている。夢はカラーで時に非常にリアルなものになるという。

 通常、人間は眠りに就くとノンレム睡眠に入り、その後、レム睡眠に移行する。このサイクルを繰り返して、朝に目が覚める。
 しかし不規則な生活が続いて明け方に寝たり、寝不足や長い昼寝をした時などは、寝入りばなにいきなりレム睡眠に入ってしまうことがある。

 脳が半分起きている寝入りばなは<自分がどこにいるのか><どんな状態なのか>といった意識が残っていて、その状態のままリアルな夢を見ると夢が現実に起こっているように感じる。恐怖や不安の記憶をつかさどる脳の扁桃体も活性化するので、恐ろしい夢を見てしまう。

 さらに、レム睡眠時は筋弛緩状態になる。全身の力が抜けているため、恐怖を感じているのにまったく動けなくなる。これが「金縛り」と「幻覚」のメカニズムだ。

■加齢とともに症状は和らぐ

「通常、深い眠りであるノンレム睡眠から入れば、その後のレム睡眠中にいくらリアルな夢を見ても、自分の状況に対する意識は遠のいたままなので金縛りは起こりません。レム睡眠中に筋弛緩が起こるのは、体を休める意味もありますが、リアルな夢によって睡眠中の体が動いてしまわないよう、脳から体を動かそうとする信号をシャットアウトする役割を持ちます」

 ノンレム睡眠とレム睡眠のサイクルにズレがなければ、金縛りに悩むことはないのだが、そもそも金縛りは若者に多く見られる現象で、年を取るに従って徐々になくなるものだという。

「不規則な生活を送っていたり、寝不足が続くと、大人になってからも金縛りにあうケースもあります。しかし、規則正しい生活を送っているのに、若い頃からずっと金縛りや幻覚に悩まされている方がいたら『ナルコレプシー』を疑ったほうがいいかもしれません」

 ナルコレプシーとは、居眠り病と呼ばれる過眠症の一種。睡眠中の頻繁な金縛りや幻覚のほか、日中に急な眠気に襲われ、会議や仕事中でも耐えられずに居眠りをしてしまったり、夜の睡眠時に何度も目が覚めてしまうといった症状が表れる。
 また、笑ったり、気分が高揚したりすると急に体の力が抜けて倒れたり、膝がカクッと抜けてしまう情動脱力発作も起こるという。

 睡眠と覚醒の移行をコントロールしている「オレキシン」という物質が脳内になくなってしまうことが原因で、睡眠と覚醒の移行が容易に行われてしまうため、日中の居眠りの頻発や夜の睡眠分断が表れる。

「日本人のナルコレプシーの有病率は600人に1人という高い頻度です。病気であることに気付かず<自分は眠気の強いタイプだから>とか<なぜ居眠りをやめられないのだろう…>などと自分を責めて苦しんでいる人も多いのです」

 頻繁に金縛りに悩まされているうえ、思い当たる症状があるようなら、精神科、神経科、心療内科等で相談し、日本睡眠学会の睡眠医療認定機関で診断を受けるといい。

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