NY中華街で30人以上感染 蚊よりも恐ろしい「秋の生魚」

旨さに潜むリスク/(C)日刊ゲンダイ
旨さに潜むリスク/(C)日刊ゲンダイ

 蚊がウイルスを媒介するデング熱の感染者が増え続け、騒動はまだまだ収まりそうにない。が、サンマやサバがうまくなる秋は、蚊よりも「魚」に注意したい。

 感染すると、筋肉が壊死したり敗血症を起こして死に至る――。「人食いバクテリア」として恐れられているのが「ビブリオ・バルニフィカス」という細菌だ。菌に汚染されている魚介類を生食することで、「ビブリオ・バルニフィカス感染症」になる。

 健康な人は下痢や腹痛を起こす程度で重症化するケースはまれだが、免疫力が低下している人、肝臓疾患や糖尿病のある人、鉄剤を服用中の人が感染すると、劇症化して高確率で死に至るから恐ろしい。

 感染症に詳しい東京医科歯科大名誉教授で、人間総合科学大教授の藤田紘一郎氏が言う。
「細菌が血液中に侵入すると、24時間程度で敗血症を起こし、発熱、悪寒、血圧低下、全身のけん怠感、意識障害などが出てきます。手足の皮膚には水ぶくれのような蜂窩織炎が現れ、放置して全身性感染を起こした場合は72時間以内にほとんど死亡します」

 ビブリオ・バルニフィカスは2~3%の塩分濃度で増殖し、水温17度以上の海水中の魚介類や甲殻類などに付着する。

「かつては海水温が高い南の海で多くみられ、九州地方や中国地方での感染が目立っていました。しかし、近年は温暖化の影響で海水温が上昇し、東北や北海道でも感染例が報告されています」(藤田氏)

 国への届け出義務がないため正確な感染者数は不明だが、75~05年の間に185の症例が報告され、117人が死亡。年間20~30例の感染があると推測されている。国立感染症研究所などが市販されている魚介類の一部を調査したところ、16%からビブリオ・バルニフィカスが検出されたというから、持病がある人は注意したい。

「早期なら抗生物質による治療が効果的ですが、間に合わない場合も多い。そのため予防が大切です。持病があったり免疫力が落ちている人は、魚介類を生で食べないこと。海岸を歩いていてケガをしたり、傷口を菌に汚染された海水につけることで感染するケースもあるので、裸足で海辺を歩いたり、素手で生の魚介類を触ることも避けたい。もし触ったらしっかり手を洗い、調理などに使用した器具もすぐに洗ってください」(藤田氏)

■傷口から侵入

 魚を介した感染症は他にもある。
「マイコバクテリウム・マリヌム」というバクテリアが原因になる「マイコバクテリウム・マリヌム感染症」もそのひとつ。
 今年3月、米ニューヨークの中華街で魚を購入した人を中心に30人以上が感染し、衛生当局が注意を呼びかける騒ぎになった。

 マイコバクテリウム・マリヌムに感染すると、手や腕、ひじ、膝などに赤い腫れ物やしこりができ、進行すると神経や筋肉に異常が起こって痛みが出たり、指が動きにくくなる。
 重症化することはほとんどないが、抗生物質が効かないケースもあり、治療が遅れると手術が必要になる場合もあるという。

「菌に汚染された魚介類を食べることによる感染はないとされていて、手や腕に傷がある人が生の魚介類に触った時、傷口から侵入して感染します。なるべく魚介類に触らないようにして、触ったらすぐにしっかり手を洗うことが大切です」(藤田氏)

 他にも、サバ、サンマ、イワシ、アジ、サケ、イカなどに多く寄生している寄生虫の「アニサキス」による「アニサキス症」も増えていて、年間2000~3000件も発生しているという。激しい腹痛や嘔吐を起こし、腸粘膜を突き破られて腹水がたまり、腸を切除するケースもある。

 やはり、魚介類の生食はなるべく避けたほうがいい。

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