異動シーズンに忍び寄る「昇進うつ」は“変化”を減らして防ぐ

抱え込んだらアウト/(C)日刊ゲンダイ
抱え込んだらアウト/(C)日刊ゲンダイ

 秋の異動シーズンで昇進したサラリーマンもいるだろう。喜ばしいことだが、「昇進うつ」に気をつけたい。

 中堅商社に勤めるHさん(43)は、昨年10月に課長に昇進した。それまでは、目標の売り上げをクリアするためにがむしゃらに働き、常にトップクラスの成績を残してきた。そうした実績を認められて引き上げられたのだが、中間管理職はまったく勝手が違った。

 個人ではなくチーム全体の数字を求められ、部下の教育もしなければならない。しかし、指示を出してもうまく回らず、Hさんのやり方に反発する部下もいた。仕事はすべて自分でチェックしなければ心配で、毎日、終電まで会社に残って仕事をこなした。目をかけてくれていた部長からは〈期待しているぞ〉と声をかけられるが、そのたびに大きなプレッシャーを感じるようになった。

 1カ月後、そんなHさんの体調に異変が表れ始めた。首と肩が異常に凝り、胃が重くてほとんど食欲がなくなった。夜は疲れているのに眠れない。寝ついてもすぐに目が覚めてしまい、次から次へと不安感が湧いてくる。出勤のために最寄り駅へ近づくと全身から汗が噴き出し、強烈な吐き気に襲われるようになった。

 異変を察知した妻の勧めでメンタルヘルスクリニックを受診したところ「昇進うつ」だと診断され、Hさんは1カ月以上も休職することに…。

■緩やかな変化と6時間以上の睡眠

 産業医として企業22社のサラリーマンのストレスケアを担当している奥田弘美氏(精神科医)は言う。

「昇進や異動をきっかけに、うつ病になってしまうサラリーマンは珍しくありません。とりわけ、プレーヤーとして優秀でやりがいを感じていた人がマネジメントを任されるようになり、うまくいかないことに思い悩んで発症するケースが多い。人間は<変化>に大きなストレスを受けます。昇進によって仕事の内容だけでなく、人間関係や勤務先といった環境がガラリと変わるケースもある。そうした変化がたくさん重なった人ほど、うつ病になるリスクもアップします」

 昇進うつの予防には、なるべく<変化>を増やさないことが基本的な対策になる。昇進に合わせて引っ越しをしたり、張り切ってビジネスセミナーに通ったりするのは危ない。これまでほとんどやったことがないのに、新しい上司としていいところを見せようと、夜な夜な部下を引き連れて飲みに出かけるのも避けたほうがいい。

「昇進直後は気持ちが盛り上がっているので、スタートダッシュをしてしまいがちです。環境が変化したことだけで精神的にも身体的にも疲れるのに、それに気付かずにこれまで以上にがんばろうとダッシュを続けるから、どんどん疲弊してしまうのです。ある程度は部下に仕事を任せ、自分の仕事が終わったら早く帰宅する。しっかり食事をして、6時間以上の睡眠をとるように心がけてください。仕事は家に持ち帰らず、休日はしっかり休む。こうした基本的な対策だけでも効果的です」(奥田医師)

 また、なんでもかんでも自分ひとりで抱え込まないことも大切だ。

 書籍や雑誌を読んでマネジメントの基本を勉強するのもいいが、それ以上に管理職経験者に悩みを相談したり、アドバイスをもらうのがベスト。職種や会社の風土によってマネジメントの方法は千差万別。だからこそ、先輩上司の体験談が“救い”になる。

「昇進うつになる人は、完璧主義者で周囲に相談するのが苦手なタイプも多い。しかし、<最初はうまくいかないのが当たり前>という意識を持って素直に周囲のアドバイスを受けることが、昇進うつの予防につながります」(奥田医師)

 これで、昇進を喜べるようになる。

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