8人に1人が悩む「尿失禁」にボトックス注射が効く

写真はイメージ/(C)日刊ゲンダイ
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「急に我慢できないような尿意が起こる」「トイレが近い」「我慢ができずに尿が漏れてしまう」――。

 これらの症状が見られるのが、過活動膀胱だ。最近のデータでは、40歳以上の男女の8人に1人が過活動膀胱の症状を持っていて、患者数は800万人以上、そのうち半数は、切迫性尿失禁(尿漏れ)があるという。この過活動膀胱で注目を集めている治療法が、ボトックスの膀胱壁への注射だ。

 亀田総合病院・ウロギネコロジーセンター長の野村昌良医師が、過活動膀胱の治療にボトックス注射を取り入れたのは今年に入ってからだ。

「過活動膀胱の治療の第1選択は、抗コリン剤とβ3アドレナリン受容体作動薬の服用になります。ところが、3~4割の人が満足いく効果を得られない。薬によっては便秘や口腔内乾燥などの副作用がつらく、薬を飲み続けられない人もいます」

 これらの薬がダメな場合、電極を体内に埋め込み、電流を流して過活動膀胱を抑える治療法が検討される。電極を簡易的に埋め込み、効果があれば永久的に埋め込むのだが、大掛かりな手術が必要で、健康保険も適用されないことから、日本では希望者が少なかった。

「ボトックスなら電極を埋め込む手術ほど患者の負担は大きくない。そもそもボトックスは、シワ取りなど美容の分野で広く行われています。神経内科の治療にも応用されていて、安全性は証明されている。手軽に受けられる過活動膀胱の治療法として、患者さんに勧められます」

■7~8割に効果

 尿意は膀胱の収縮で感じるが、ボトックスは膀胱の神経に作用して膀胱の収縮を抑制する働きがあるので、過剰に活動する膀胱の働きを通常程度に持っていくことができる。治療は局所麻酔をかけて、尿道口から膀胱鏡と特殊な注射針を挿し入れ、膀胱壁に30カ所程度、ボトックスを打つ。

「7~8割の人に効果があります。麻酔は打たなくても構いませんが、打った方が患者さんがよりリラックスして治療が受けられる。日帰りでできます」

 副作用としては、尿が出にくくなる「排尿困難」がある。高度になると、おしっこが出なくなる「尿閉」を起こす人もいる。特に男性に起こりやすい。

「だから、男性の過活動膀胱には、ボトックス注射はあまり行われていません。女性は尿道が短いので、尿閉の心配はほとんどありません」

 次に、残尿感が出やすくなる。尿が残ると、細菌に感染して膀胱炎が起こりやすくなるので、野村医師は念のため、ボトックスを受けた患者には抗生物質を渡しておくという。

「ボトックスは、それがメリットでもデメリットでもあるのですが、効果が平均して8カ月から1年しか持続しません。継続してボトックスの治療を受けなければ、効果も副作用も同時に消えていきます」

 患者によっては、生活の状況に応じて、この時期にはボトックスを打ち、この時期にはなしで……と使い分けている。もちろん、効果が切れるごとに打ち続けても、ボトックスが効きにくくなるというわけではないので、継続して治療を受けるのでもいい。

 健康保険は適用されない。亀田総合病院では10万円くらいかかる。

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