片耳が聞こえなくなった…急性難聴は重大病の危険信号だ

初動が肝心/(C)日刊ゲンダイ
初動が肝心/(C)日刊ゲンダイ

 突然、片耳が聞こえなくなった。よく疑われるのは突発性難聴やメニエール病だが、急性難聴を引き起こす病気は他にもたくさんある。中には、命を脅かすものまであるという。慶応大学医学部耳鼻咽喉科学の小川郁教授に詳しく聞いた。

 耳の構造は「外耳」「中耳」「内耳」の3つに分けられる。外耳は外界から鼓膜までの部分。中耳は鼓膜の奥の空間で、音の振動を感じ取る耳小骨や、耳と鼻をつなぐ耳管がある。内耳は脳に一番近く、平衡感覚をつかさどる三半規管や聴覚をつかさどる蝸牛があり、常にリンパ液で満たされている。

 急な難聴は、外的な刺激や内的な疾患によってこれらの機能に障害が起こることで発症する。

「片耳の急性難聴から考えられる代表的な疾患は、よく知られる突発性難聴やメニエール病の他に、<滲出(しんしゅつ)性中耳炎><外リンパ瘻(ろう)><聴神経腫瘍>などがあります。いずれも、早期に治療すれば治る可能性も高い疾患ですが、治療が遅れて一定の期間を過ぎると、聴力を失ったり、命に関わることもある大病です」

 滲出性中耳炎は、中耳にある耳管の働きが落ちて中耳腔の圧力が外部よりも低くなる陰圧状態が続き、中耳粘膜から滲出してきた液が中耳にたまって聴覚に障害を起こす疾患だ。難聴の他に、耳の閉塞感といった症状が出る。耳管の働きが未熟な乳幼児や、耳管が衰え始める中高年によく見られるという。

「成人の場合は、アレルギー性鼻炎、急性鼻炎、副鼻腔炎にかかった後、中耳腔に細菌が感染して発症するケースも多い。まれに上咽頭がんの初発症状の場合もあるので、甘く見てはいけません」

 年をとると、痛みを感じづらくなって徐々に左右の聴力が落ちていくので、老人性難聴と診断されてがんが見過ごされることもあるから気を付けたい。鼻炎やがんなどの疾患が原因で難聴が起こっている場合は原因疾患の治療を行う。中耳の衰えが原因なら、滲出液を排液する鼓膜切開手術が必要になるという。

■上咽頭がん、脳腫瘍の可能性も

 外リンパ瘻も、急な難聴を引き起こす。重い物を持ち上げる、鼻を強くかむ、スキューバダイビングで海に潜るなどした際、中耳圧や脳脊髄圧が急激に上昇し、外リンパ液が内耳から鼓膜腔に漏れて平衡感覚や聴力に障害が起こる。

「外リンパ液が漏れ出た直後から強い回転性のめまいが起こり、難聴や耳鳴りも伴います。仮に海中でめまいが起こったら、そのまま溺れてしまうケースも考えられるので非常に危険です。とりわけ中高年は若い頃よりも外圧による影響を受けやすく、発生率も高いので要注意です」

 治療は安静にして自然閉鎖を待つのが一般的だが、効果がない場合は外リンパ瘻の閉鎖手術を行う。

 急な難聴を引き起こす疾患で、いちばん危険なものは聴神経腫瘍だ。

「これは、脳腫瘍の中で最も頻度が高いものです。耳から得た情報を脳に送る内耳の蝸牛神経と、平衡感覚をつかさどる前庭神経という2種類の神経にできた腫瘍が圧迫、破壊し、難聴や耳鳴りが起こります。片耳が聞こえなくなったのに放置すれば、最悪の場合、腫瘍が増大して脳の組織が破壊され、命の危険を伴うケースもあります」

 腫瘍を発見したら定期的にMRI検査を行い、年間に数ミリ程度の成長しかなければ経過を見る。増大傾向が認められれば、サイバーナイフやガンマナイフによる放射線治療や摘出手術を行う。

 片耳の難聴を引き起こす病気はまだいくつもある。放置して片耳の聴力を失えば、大勢での会話や雑音の中で相手の声を聞き取れなくなる。ひいては脳への刺激が減り、将来的に老人性うつや認知症を発症する可能性まで高めてしまうという。
 急に片耳が聞こえなくなったら危険信号と捉え、すぐに医療機関で診察を受けたほうがいい。

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