ここ何年も、日本では毎年約1500人のHIV新規感染者が報告されている。このうち3分の1の500人は、エイズを発症してから病院を受診した人だ。HIV/エイズの最新事情を国立国際医療研究センターエイズ治療・研究開発センター長の岡慎一医師に聞いた。
HIVに感染し、まだ発症していない人を「HIV感染者」といい、免疫力が低下し、ニューモシスチス肺炎や食道カンジダ症、進行性多巣性白質脳症、悪性リンパ腫などさまざまな疾患を発症した人を「エイズ患者」という。
「HIVに感染しても、死にません。優れた複数の薬が登場し、現在は1日1回1錠の服薬でも、完全にHIVの増殖を抑えられます。90日処方が可能なので、通院は年4回でいい。HIV感染者の平均寿命は20代で40~50年に延び、健常人となんら変わらぬ生活を送ることができます」
薬を服用していれば、“たとえコンドームなしでセックスをしてもパートナーにHIVをうつすことはない”とまでいわれている。妊娠・出産も可能で、母子感染の可能性は1%以下と低い。
「薬を一生飲み続けなくてはならないので、『治る』とは言えませんが、それとほぼ同義です」
ただし、これらは「エイズ発病前から薬をきちんと服用すれば」の話。問題点は、HIVの感染を確認していない人が大半ということだ。
「こういった人が周囲にHIVをうつす。さらに、HIV感染の段階では薬でウイルスの増殖を抑制できますが、エイズ患者になってからでは手遅れ。治療を受けなければ、ほぼ100%エイズを発症します。エイズは、今も昔も非常に怖い病気です」
発症する疾患によるが、進行性多巣性白質脳症なら痴呆になり、薬でHIVの増殖は抑制されても、その後、一生痴呆で寝たきりのまま。悪性リンパ腫なら半年ほど化学療法を繰り返しても再発し、命を落とすことも。発症前に感染が分かって治療を受けるか、発症後に病院に来るか、天国と地獄ほどの差がある。
■コンドームは感染予防にならない
HIVは、薬以外では感染の拡大をストップできない。片方がHIV感染のカップル約1600組を対象にした世界的な臨床試験で証明された。
「800組にはHIVの増殖を抑える薬を、別の800組には薬は使わずコンドームを使うセイファーセックスを徹底して指導しました。すると、前者ではセックスパートナーからHIVが感染したのは1人だったが、後者は多数感染した。この結果から分かるのは、セイファーセックスの指導だけでHIVの感染予防は難しいこと、そして薬の服用でHIVの感染を防げることの2つです」
HIV検査は保健所で無料で受けられる。地区ごとに検査日は違うが、記者が東京23区内で調べると、平日の限られた時間だけで、検査日と結果日の2日、保健所まで行かなくてはならない。予約も必要で、ある区は、10月半ばに電話したにもかかわらず、「11月はいっぱい。枠はすぐに埋まる」と言われた。
「現状ではリスクの高い人がスムーズに受けられるようになっていない。ただ、有料ですが医療機関でも受け付けていますし、郵送すれば調べてもらえる方法もあります。アメリカでは唾液で自分で検査するキットも認可されています。HIV感染が分かれば、『発症せずに済む』ということで、非常にハッピーです。自分に合った方法で、ぜひ検査を受けてほしい」