肉体と神経くたびれ…肩凝りが全身痛「頚肩腕症候群」を招く

写真はイメージ/(C)日刊ゲンダイ
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 首や肩の凝りが痛みに変わったら、それは単なる凝りではなく、「頚肩腕症候群」かもしれない。この疾患の診断・治療を専門に行っている「新小岩わたなべクリニック」の渡辺靖之院長に聞いた。

(1)首や肩の凝りがひどく、「凝り」というより「痛い」
(2)疲れやすく、休日は何も活動できないほどぐったりしている

「(1)、あるいは(1)と(2)の両方に該当するなら、頚肩腕症候群でしょう。それらが原因で、仕事の集中力などが低下してミスを犯したりしていませんか。さらに放置していると、仕事への悪影響だけでなく、首・肩以外にも頭痛、手のしびれ、背筋痛、腰痛、慢性の疼痛などさまざまな症状が出てきます」

 全身が痛む「線維筋痛症」という疾患があるが、「頚肩腕症候群は悪化すると、体のあちこちに痛みの症状を引き起こす。だから、線維筋痛症の中にも、頚肩腕症候群が原因となっている人がかなりいるのではないか」と、渡辺院長は指摘する。

 頚肩腕症候群は、もともと整形外科の分野で首、肩、腕に症状のある場合を広い意味で捉えた言葉だった。昭和40年ごろにキーパンチャーや電話交換手の「キーパンチャー病」として知られ、最近ではパソコン作業など上肢作業によって、首、肩、腕に症状が出る場合を「頚肩腕症候群」として扱うことになった。

「上肢作業による動的・静的な肉体的疲労と、脳の慢性的な神経疲労の2つが要因となっています。肉体的疲労は本人や周囲も気づきやすいが、神経疲労はその度合いが分かりにくい。そのため、『まだ頑張れる』となってしまう。そして最初は首や肩のひどい凝り、腕の痛み、しびれるといった程度だったのが、次第に全身に痛みが広がり、仕事を続けるのが困難になる人が珍しくありません」

■精神的ストレスで一気に進行

「リストラで社員が減って仕事の荷重が大きくなった」「体調不良で仕事をする能力が落ちたのに仕事量はそのまま」といったことがきっかけになって、一気に症状が進むこともある。

「睡眠や休養を十分に取れている時を『黒字』、仕事量がオーバーしている時を『赤字』とすると、1週間単位で調整して結果的に黒字にできれば、頚肩腕症候群にはならない。ところが、赤字が続くと、頚肩腕症候群に至り、重症化する恐れがあるのです」

 厄介なことに、レントゲンなどの画像診断では発見できない。整形外科に行っても「異常なし」「原因不明」と言われ、医療機関を転々とする人も少なくない。

「私は、首や肩、腕などを軽く押したり、叩いて診ます。それで凝り・痛みを訴えれば、筋肉が緊張しているということ。緊張の程度は時間によって変化しますが、圧痛点(押して痛みのある場所)は一度できてしまうと変わりません。圧痛点が広がっているほど重症です」

 予防・治療の基本は仕事量・密度の調整と十分な睡眠・休養。休日はゆっくり休み、パソコン作業は60分したら15分休む。集中的入力作業は5時間までにする。症状によっては、消炎鎮痛剤や筋弛緩薬、抗うつ薬や抗不安薬、漢方薬などを用いることもある。

「対策は早ければ早いほどいい。重症化したために、休業期間が5年、10年という患者さんもいるのです」

 凝りを甘く見てはいけないのだ。

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