「明日からでも入院してください!」
昨年の11月、東京・中野に住む団体職員、永川壮一さん(仮名、58歳)は、いきなり内科医にこう告げられた。
自宅から車で10分の近場にある総合病院に通院し、2年近くになる。少し血圧が高いことを除けば、気になる症状は別にない。それでも通院してきたのは、性格が健康オタクのため。奇数の月、つまり2カ月に1回、「血液検査」だけを受診してきたのだ。
担当の内科医とは顔なじみになったが、昨年11月に交代。新しく担当となった医師は突然、入院を勧めてきたのである。
「理由を聞くと、過去1~2カ月の血糖値の状態を示すヘモグロビン・エー・ワン・シー(HbA1c)が異常に高いというのです。7.9%もある。『入院するか、管理栄養士の指導を受けなさい』と。このまま治療しないと明日にでも死にますよ、という脅しにも近い診断でしたね」
血液中に含まれる血糖(ブドウ糖)は、生命活動を維持するエネルギー源である。その血糖と結合したヘモグロビン(赤血球の中に存在するタンパク質)がHbA1cで、全ヘモグロビンの何%を占めるかを数値で出す。日本糖尿病学会によると、正常値は6.2%未満。高い数値が長く続くと糖尿病になり、やがて血管が侵されて動脈硬化、腎機能低下、心筋梗塞といった重い合併症を招く。
永川さんは翌週、担当医に紹介された同病院の管理栄養士を訪ねた。
「とにかく2カ月間、食事の改善を行ってみましょうね。それでもHbA1cが下がらない時は、入院してください。これから1週間、食べたもの、飲んだものの名前、量をすべて正確に記録して、来週また来院してください」
こう指示を受けると早速、翌朝のコーヒーから朝食、昼食、夕食、それに酒の種類や数量までノートに克明に記録。1週間後、再び管理栄養士の指導を受けた。
「1日のカロリー目標は1600キロカロリーでした。最初はキツかったですね。病院食ぐらいの量で、食べる順番まで指導されるのです。最初は野菜から。それも根菜ではなく、ほうれん草やキャベツなど葉物野菜を先に食べる。次に豚肉や鳥肉などタンパク質の食材、最後は少量のご飯、そば、うどんなどの炭水化物類です。酒類は糖質が多く含まれる日本酒ではなく、焼酎、ウイスキー、ジンに。そんなアドバイスを受けました」
1回の診察代金は200円。食事内容の記録を持って2カ月間、都合8回通院した。体重が5キロ近く減り、肝心のHbA1cの数値は、7.9%から正常値範囲の5.4%まで落ちた。
「一日中お腹がすきますが、入院を思えば我慢もできます。今は、ちょっと食べ過ぎたかなと思うだけで怖いですね」
頭の中は食事のことでいっぱいだという。
患者に聞け