めまい、耳鳴りを招く「顎関節症」 楽器の長時間練習に要注意

写真はイメージ/(C)日刊ゲンダイ
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「吹奏楽部の強豪校で、熱い学園生活を過ごしてもらいたい」――。中学・高校の受験シーズンを終え、わが子の新生活に思いを馳せる人も多いのではないか。しかし、中高生の吹奏楽部員は練習のし過ぎには注意が必要だ。顎を壊し、将来めまいや耳鳴りなどに悩まされかねない。

 全国でも有数の吹奏楽激戦区といわれる兵庫県。名門中学の吹奏楽部に所属する女生徒が顎の痛みを訴え、兵庫医科大学の顎関節症外来を訪れたのは数年前のことだ。

「口を大きく開けようとすると痛い、というのです。担当はクラリネット。診ると典型的な顎関節症でした」(兵庫医科大学歯科口腔外科学講座の本田公亮教授)

 顎関節症とは顎の関節の異常により「顎が痛い」「顎が鳴る」「口が開きにくい」などを主な症状とする包括的疾患のこと。顎関節症により咀嚼筋の過度な緊張や顎関節の異常が起き、三叉神経が刺激され、めまいや耳鳴り、痛みなどが出る場合もある。

「幸いこの女子中学生は練習を休むことで良くなりましたが、他にも部活で管楽器を演奏している中学生が顎関節症状を訴えて当科を受診し、その数が大学生や高校生に比べて特に多いことに気づきました。そこで神戸市内の中学の吹奏楽部で、ほぼ毎日練習している4校を1年間調べたのです」(本田教授)

 その結果、驚くべきことが判明した。管楽器演奏者184人のうち、34.8%に当たる64人が顎関節症だったのだ。

「顎関節症の一般的な有病率は5~12%。明らかに吹奏楽部部員の有病率は高い。そこで詳しく調べてみると、トランペットやトロンボーン、クラリネットなど、息の吹き込み口の小さい楽器演奏者ほど多く、女生徒の占める顎関節症の割合は男生徒の倍近い数字になっていました」(本田教授)

 当然のことだが、練習時間が長ければ長いほど顎関節症のリスクは高くなる。

「4校のうち1校は日曜日に練習を休んでいましたが、他の3校は正月など特別な日を除いて基本的に毎日練習していました。練習時間で調べると、1日8時間を超えると有病率が跳ね上がることがわかりました」(本田教授)

■有病率が高いのは木管楽器

 気になるのは、どんな楽器が顎関節症になりやすいかだ。

「今回の調査ではリードありの木管楽器の有病率が最も高く、次いでリードなしの木管楽器、マウスピースの小さい金管楽器、マウスピースの大きい金管楽器という順でした」(本田教授)

 千葉県のオーケストラに所属する管楽器奏者を調べた別の調査では、最も多かったのはダブルリードのオーボエ、ファゴットなど。次いで、クラリネット、サクソホンなどのマウスピースに1枚のリードを取り付ける楽器、カップ型のマウスピースを使うトランペット、ホルン、トロンボーン、チューバなど。比較的少なかったのはフルート、ピッコロなどだった。

 なぜ、管楽器を演奏する若い女性に顎関節症が多いのか?

「口の周辺で楽器を固定する構えが筋肉の負担を大きくし、顎関節症につながると考えられます。普通の練習時間で発症した顎関節症なら練習をやめれば自然と治ります。しかし、長時間のハードな練習で発症した顎関節症は顎の形が変わったり、顎のちょうつがいとなる場所でクッションの働きをする関節円板がすり減ったり、穴が開いたりして治らなくなる。周囲の大人は注意すべきです」(本田教授)

 吹奏楽部の長時間練習は修練だなんて許しておくと、わが子の顎が壊れ、将来にわたり嘆くことにもなりかねない。

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