パンツがきつくなったら注意 急にせり出たお腹に潜む重大病

短期間の体重増は危ない
短期間の体重増は危ない(C)日刊ゲンダイ

「最近、ズボンが窮屈で……。太り過ぎかなあ」

 急にお腹がせり出しても、ついつい軽く考えてしまいがちだが、甘く見てはいけない。命に関わる重大病が潜んでいることがある。

 都内の専業主婦・中野和代さん(仮名、63歳)が急激なお腹の膨張に気がついたのは、1カ月前のこと。普段はウエストがゴムでできたスカートをはいているので気づかなかったが、外出用のズボンが急に窮屈になっていた。「食べ過ぎたのかしら」と思ったが、周りからは「最近、食が細いわね」と言われていたから、不思議でならなかった。

 そこで、病院で原因を調べてもらったところ、腹水がたまっていた。末期の卵巣がんだった。松尾内科クリニック(東京・桜新町)の松尾孝俊院長が言う。

「お腹が急激に膨れてくるのは、食事中に空気をのみ込んでしまう呑気症のほか、ストレスや手術の後遺症、老化などが原因で大腸の働きが悪くなり、ガスがたまるケースがほとんどです。しかし、重大な病気が隠れていることもあるので注意が必要です」

■短期間の体重増が危ない

 そのひとつががんだ。がんが進行すると、お腹にがん細胞が散らばるように広がり、がん性腹膜炎を起こすことがある。

「消化器系や婦人科系の末期がんに多く見られる症状で、がん性腹膜炎になると、お腹の臓器と臓器の間に腹水がたまります」(松尾院長)

 その量は数リットルから十数リットルに及ぶ。お腹がぽっこり出て息苦しくなり、胃が圧迫されて食欲が落ちることもある。

「末期がんといっても、中野さんのように膨満感以外、特段の痛みなどの自覚症状がなく腹水がたまり、それががん発見につながるケースもあります」(松尾院長)

 心臓のポンプとしての機能に障害が出て、血液を十分送り出したり、戻ってきた血液をスムーズに取り込めなくなる状態を心不全という。この場合も腹水がたまる。都内の循環器科医師が言う。

「心不全は心筋梗塞や心臓弁膜症、高血圧などあらゆる心臓病で起きる症状です。心不全で腹水が見られるのは、右心室の機能が衰える右心不全の時で、静脈がうっ血し、全身に血がたまります。血液の巡りが悪くなるため栄養が行き届かず、疲れや脱力感があり、手足が冷たくなります」

 ほかに腹水がたまる病気といえば腎不全、膵炎などがある。もっとも多いのは肝硬変だ。

「お酒の飲み過ぎやウイルス感染、慢性肝炎などにより、肝細胞の周りに線維性隔壁ができて肝臓の組織が硬くなり、肝機能が失われる病気です。肝硬変になると肝臓で作られ、血液中の物質移動や体液濃度の調整をするアルブミンが減少。水分が流れ出て腹水がたまりやすくなるのです」(都内の内科医)

 肝硬変が末期を迎えると、本来なら肝臓で無毒化されるアンモニアなども血管を通して脳に運ばれ、肝性昏睡という意識障害を引き起こす。こうなると、ほとんどの人は助からない。

 急なお腹の張りが腹水によるものか否かは、どうしたらわかるのか。

「単なる肥満や便秘などでお腹が張り出しただけなら、体を横たえてもお腹の形に変化はありません。しかし、横になるとお腹のたるみが両脇に流れ、脇腹を押すとたるみが移動するなら、腹水を疑った方がいいでしょう。特に短期間に急に体重が増えた人は、病院で調べてもらいましょう」(松尾院長)

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