4月から新しく「機能性表示食品制度」がスタートした。これまでの「特定保健用食品(トクホ)」と「栄養機能食品」に続く第3の食品表示制度で、“健康効果”を謳うことができる食品の範囲が拡大された。惑わされないようにしたい。
「〇〇は△△の健康維持を助ける栄養素です」
近いうちにスーパーやコンビニは、こんな“健康効果”を謳った食品であふれ返ることになる。
今回の新制度では、生鮮食品、加工食品、サプリメントなど、ほぼすべての食品が対象になる。「〇〇に効く」「〇〇を治す」などと病気の治療や予防効果については表示できないが、「体のどの部分の健康に役立つのか」「どの成分がどうやって機能するのか」など、健康の維持や増進の範囲なら、科学的根拠となる資料を提出するだけで、国の事前審査がなくても表示できる。しかも、すでに発表されている過去の研究論文を科学的根拠として使うことができるため、ハードルがガクンと下がった。
消費者庁は、人員を強化して違反表示を取り締まる方針を打ち出しているが、玉石混交の“健康食品”が入り乱れるのは間違いない。
実際に新制度を利用した食品が市場に出回るのは、6月ごろとみられている。消費者は食品と機能をしっかり見極める目を養っておきたい。
県立広島大名誉教授で、東北女子大教授の加藤秀夫氏(時間栄養学)は言う。
「これまでのトクホは、安全性や有効性を示す臨床試験が必要で、承認までには莫大な予算と時間が必要でした。しかし、そのトクホですら、実際にどれだけ健康効果があるか分からないものが見受けられます。ハードルが低い新制度では、消費者が期待する効果とは懸け離れた商品もたくさん出てくるでしょう」
■それさえ食べればOKと思い込むと…
そもそも今回から対象になる野菜、果物、魚介類といった生鮮食品は、産地や収穫時期によって、含まれている成分量の個体差が大きい。機能が表示されているからといって、その食品を食べれば、健康にいい栄養素を必要なだけ摂取できるとは限らないのだ。
横浜創英大名誉教授の則岡孝子氏(栄養学)もこう懸念する。
「機能が表示されることで、消費者が『それさえ食べておけば体にいい』と思い込んでしまう危険があります。たとえば鉄の場合、厚労省の食事摂取基準では、性別や年齢によって推奨量は大きく数値が異なります。しかし、新制度の表示基準なら、6・8ミリグラムを満たしていれば機能を謳うことができる。月経がある15歳以上の女性の場合、推奨量は10・5ミリグラムですから、懸け離れています。こうした成分はいくつもあるので、注意が必要です」
逆に栄養素の過剰摂取を助長する危険もある。
たとえば、カリウムはナトリウムの排出を促す働きがある。新制度では「正常な血圧を保つのに必要な栄養素です」と表示できるため、高血圧の人はカリウムをたくさん摂取すればいいと考えてもおかしくない。
しかし、腎機能が低下している人がカリウムを過剰に摂取すると、高カリウム血症を引き起こすケースがある。不整脈を起こしたり、重症の場合は心臓が止まったりすることもある。
「亜鉛、カルシウム、ビタミン類なども、過剰摂取すれば健康を害するケースがあります。何らかの健康効果があるというのは、取り過ぎれば逆に作用するということでもある。新制度の機能表示はあくまで目安と考え、自分に必要な栄養素の種類や量などは、医師などに相談してしっかり把握しておくことが大切です」(則岡氏)
新制度では過剰摂取の注意喚起も表記されるが、細かい表記まで確認しないで、健康効果だけに目が行ってしまう消費者も多いだろう。注意したい。
「食品には、表示される機能的な栄養素だけではなく、他にもさまざまな栄養素が含まれています。いろいろな食品を食べることで栄養素を総合的に摂取するのが、健康にとっては重要なのです」(加藤氏)
クローズアップされる機能だけに目を奪われないよう気を付けたい。