脳梗塞治療は年々進化も 「FAST」だけは忘れてはいけない

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 脳梗塞で死に至る人の多くは、発見・治療が遅れた人だ。いまや、早期に治療が開始されれば、脳梗塞は治る時代。脳梗塞治療の最前線をお伝えしよう。

 米国に遅れること9年、2005年に脳梗塞の画期的な治療「血栓溶解療法」が承認された。血栓を溶かす薬剤「tPA」を静脈注射して、脳の血管を再開通させる。患者への負担も少ないが、大きな課題があった。

「発症後4時間半以内に治療を開始しないと、効果がないのです。診断システムが整った脳卒中センターでも、診断には1時間かかります。そのため、発症後3時間半以内に病院に搬送された患者さんしか血栓溶解療法が適応にならないのです」(兵庫医科大学脳神経外科・吉村紳一主任教授)

 しかも、重症例や主幹動脈の脳梗塞に対しては血栓溶解療法は効きにくい。そのため、tPAの恩恵を受けられるのは脳梗塞全体の5%未満だった。

 tPAの血栓溶解療法が適応できない、あるいは無効の患者に対しては、カテーテル(細い管)を血管に導入して血栓溶解剤を投与する治療法と、バルーン(風船)を閉塞した血管に置く治療法が行われる。

■網目状の筒で血栓をからめとる新機器も登場

 2010、11年には、これらよりも高い効果が期待される2つのタイプの機器が承認された。先端がらせん状の軟らかいワイヤで血栓をからめとって回収するタイプと、血栓を吸引して回収するタイプだ。

 さらに13、14年、より効果的な2つの機器が、相次いで承認された。どちらもステント(金属の網目状の筒)が血栓内で広がり、血栓をからめとる。そのステントを引き抜くことで血栓も引き抜かれ、血流が再開し、死や後遺症を免れる。

「脳梗塞の治療は、血栓で詰まった脳の血管を再開通させ、死亡率を減らし、自立した生活を取り戻せるかどうかで評価します。13、14年に承認された機器は、その前の機器と比較して優れていることが明らかになっています。たとえば、90日後の日常生活自立度を比較すると、10年承認の『メルシー』は約21%ですが、14年承認の『トレボ』は40%と2倍高い。脳梗塞発症後8時間以内まで可能です」(神戸市立医療センター中央市民病院脳卒中センター・坂井信幸センター長)

 つまり、脳梗塞治療の最前線は、「まず、可能ならtPAを静脈注射。無効か不可能なら、ステントで血栓をからめとり引き抜く治療」となる。

 脳梗塞の治療技術は、どんどん進歩している。しかし、脳梗塞の発症から元通りの生活を取り戻す可能性を少しでも高くするには、絶対に押さえておかなくてはならないポイントがある。

「おかしいと思ったら、一刻も早く専門病院へ行くことです。時間が経過すれば、それだけ治療の選択肢が減っていきます。『FAST』という言葉を常に念頭に置いてください」(前出の吉村主任教授)

「F」は「Face」、つまり顔に左右差はないか? 「A」は「Arm」、両腕を前に上げて維持可能か? 「S」は「Speech」、明瞭に話せるか? そして「T」は「Time」。これらのうち、ひとつでも当てはまればすぐに救急車を呼ぶ。「様子を見よう」という考えは捨てなければならない。

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