症状消えても完治ではない 歯の健康は「メンテナンス」が肝心

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 食欲は3大欲求のひとつ。おいしい食事を心ゆくまで楽しもうと思えば、歯の健康維持は欠かせない条件だ。ところが歯について正しい知識を持たないために、定年後、苦しんでいる人が珍しくない。

「定年後に“なんとかなりませんか”とクリニックにいらっしゃる男性が多いのですが、その時には“どうしようもしてあげられない状態”のことが多いのです」

 こう話すのは、ヒナ歯科&ケアクリニック・能木場公彦院長だ。40歳以上の8割が歯周病だといわれている。歯周病対策は歯磨きだけでは不十分で、少なくとも年1回は定期的に歯科医院に行き、歯石除去などのメンテナンスを受ける必要がある。

 歯周病の初期の症状としては、歯磨きの時に出血したり、冷たい物がしみたりする。やがて、歯肉の痛みが出たり、硬い物を食べると歯が痛くなったり、歯がグラグラしたりする。これらの症状が出てくる時は、歯周病がかなり進行している可能性が高い。

 しかも歯周病は「サイレント・ディジーズ(沈黙の病気)」と呼ばれていて、一時症状が出ても、しばらくすると消え、何年か後にまた症状が出るパターンを繰り返す。症状が消えても「治った」のではなく、その間に早く手を打たなければ、確実に歯周病が進行していくのだ。

「そうやって“壊滅状態”に至った人が、定年後にいらっしゃるのです。痛んで抜く歯の本数が多いほど、噛み合わせのバランスが崩れ、全体へ及ぼす影響が大きくなります。治療費も高額になり、食べられない食品が増えていきます」

■“歯科ジプシー”になる患者も

 ナス、漬物、粗びきソーセージ、かっぱ巻き、焼き肉、ホタテやタコといった魚介類など、噛み切れないために食べられなくなる食品は想像以上に多い。結果、「定年後は旅行をしておいしいものを食べたい」といった希望がついえてしまう。定期的にメンテナンスをしていた妻はなんでも食べられるので、「それを見るにつけ、腹立たしい」とこぼす男性もいるという。

「入れ歯、ブリッジ、インプラントという治療方法もありますが、これはこれで、『治したはずなのにトラブルが出てきた』と訴えて歯科医院を転々とする“歯科ジプシー”になっている患者さんも珍しくありません」

 入れ歯ひとつとってもさまざまな材料があり、質はピンキリだ。口の中は骨格や歯のつくりなど人によって異なり、歯周病による“損傷度”も違う。最新の質のいい材料を使い、各人に合うように何度もチェックをしようとすれば、保険の適用でカバーできないところも出てくるし、費用もそれなりにかかる。

 しかし、がんなどの重大病についてはある程度心構えをしていても、入れ歯について「退職金のうち、これだけは歯の治療に」と準備する人は、少ないのではないか。

「高額の治療費を払ってインプラントをしても、うまくいかない人もいます。インプラントは歯周病の治療をして口腔内の環境を改善してから行うのが基本ですが、その前にインプラントをしてしまう患者さんもいます。インプラントは治療後もメンテナンスが不可欠。それをしなかったために、インプラント周囲炎を起こし、こじらせ、結局、抜かなければならなくなるケースもあるのです」

 場合によっては骨ごと削る大掛かりな治療が必要になり、「せっかくインプラントをしたのに……」となりかねない。

 定年後に後悔しないためには、現役時代から定期的に歯科医院でメンテナンスを受けること。「忙しい」を理由にしている場合ではない。

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