1日10回の「腰割り」習慣化で“要介護状態”リスクを予防する

股関節周辺の筋肉を鍛える
股関節周辺の筋肉を鍛える(C)日刊ゲンダイ

 老いは足から始まる──。つまずきやすかったり、腰痛、膝痛があるなら、足腰の筋肉が衰えている証拠。ロコモティブシンドローム(運動器症候群)になれば、要介護状態になってしまうリスクもアップする。予防のためには「腰割り」が効果的だ。

 股関節の周りには全身を支える大きな筋肉が集まっている。これらが加齢で衰えると上半身のバランスが崩れ、腰や膝に負担がかかって腰痛や膝痛が起こる。足を持ち上げる力も弱まり、つまずきやすくなる。片足で立ちながら靴下がはけなかったり、「女の子座り」ができない人は、股関節周辺の筋肉が衰えてきている。

 そんな下半身を若返らせるには、「腰割り」が有効だという。筑波大学人間総合科学研究科教授の白木仁氏(写真)は言う。

「腰割りは、昔から相撲取りが重心を安定させるために行っているトレーニングで、四股踏みの前段階に行うものです。下半身を鍛える運動というとスクワットが一般的ですが、前傾姿勢で膝も正面に向けて屈伸するスクワットは、体重が重い相撲取りの膝や腰に重度の負担がかかってしまいます。1500年も前から相撲取りたちの間で腰割りが行われてきたのは、足腰に無理なく下半身を鍛えられる、理にかなった運動だからなのです」

 腰割り運動は1日10回行うだけで、股関節周辺の筋肉を一度に鍛えることができるという。

 基本姿勢は、両足を肩幅より少し広めに開き、つま先をそれぞれ90度外向きにする。そのまま上半身を地面と垂直に保ちながら、90度まで膝の屈伸を行う。腰を曲げず、膝も外向きにすることで、無理なく股関節の筋肉を刺激することができるのだ。

■2週間継続で効果が

 しかし、日常的に運動不足で、股関節をほとんど動かしていない人が、いきなりこの動作を行うことは難しい。その場合は、つま先の向きと膝の屈伸角度を45度程度にして、浅めの腰割りから始めたい。上体が起こせず、前かがみになったり、出っ尻になると腰や背中を痛めてしまうから注意が必要だ。

「腰割りを1日10回、2週間程度続ければ、すぐに効果が表れます。腰回りの筋肉に刺激を与えることで『促通』(脳の神経回路から筋肉への伝達が早くなる)が起こり、スムーズに体が動くようになります。また、腰割りによって骨盤の内側にある腸腰筋も鍛えられる。腸腰筋は、足を上げたり、姿勢を安定させる役割をしているので、歪んだ腰が正しい位置に戻って上半身のぐらつきも直り、重心が安定して姿勢も伸びてきます」

 骨盤の内側には、腸腰筋以外にも筋肉があり、全身の筋肉の中でも非常に重要な役割を果たしているといわれる。

 内臓や生殖器を支えている骨盤底筋が衰えると内臓が下へさがり、失禁や不定愁訴につながる。普段、使っていない骨盤底筋を腰割りでしっかり刺激することで肛門が締まり、内臓の位置が正される。内臓自体にも刺激が与えられ、体の内側から健康になれるという。

 さらに、骨盤の周りにある中殿筋や大殿筋、太ももを支えている大腿四頭筋や内転筋など、多くの重要な筋肉も腰割りなら一度に鍛えることができる。筋肉の血行促進による代謝アップ、長時間の歩行や階段の上り下りが楽になるほか、食欲増進、肩こり、冷え性緩和、だるさの解消など、その効果は全身に及ぶ。

 1日たった10回の腰割りで、ここまで大きな効果を期待できるとなれば、やらない手はない。50代のうちから習慣にすれば、20年後も元気な老後を迎えられる。

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